最後の大型シャドウ



「発見しました。場所はムーンライトブリッジ南端。12番目……最後のシャドウです」


四月から数えて七回目の満月の夜。迎えた影時間はいつもと同じくただ無機質で。作戦室に、山岸の声だけが確かに響き渡った。







《11/03 最後の大型シャドウ》







今までよく戦ってくれた。そう労い、これが最後だと喝を入れた桐条の言葉に奮起され、皆は気合いを改めムーンライトブリッジを目指す。事前にそこを調べた山岸が言うには、やはりというべきか、梓董達とは別のペルソナ使いの反応が感じられたらしい。

言うまでもなく、その主はストレガの二人で違いないだろう。察したからこそ、天田と真田、イルの表情が、少しばかり他の皆より意味合い強く変じていた。

借りは返さねば。意気込むその気持ちは、梓董としても同じもの。憎しみに身を任せる気はないが、だからといって私怨なくして彼らと対峙できるような高尚な人間ではいられなかった。それだけ皆にとって大事な存在なのだ、荒垣は。

山岸の索敵結果通り、ムーンライトブリッジまで辿り着いた皆を待っていたのは、大型シャドウよりも先にストレガの二人……タカヤとジンだった。

彼らは言う。命は日々無数に死んでゆき、そこにシャドウは関係ないと。ペルソナ能力そのものも、悪などではなく否定する理由はない。だから、そう。


「本当は、分かっているんでしょう……? あなた方は影時間を消したい訳じゃない……。そうする事で、自分の中の何かを消した気になりたいだけなのですよ」


自分の中の何か。
曖昧なそれを形作る名称など不明瞭で、だけれどたぶん、否定しきれる言葉を放つことができない皆は、それに思うところはあるということだろう。極論ばかりを口にするストレガも、奥を抉り出す言葉とて持ち得ているということだ。

とはいえ、やはりそれを今回もまた、あっさり真正面から斬り伏せる少女がここにいるのだが。


「毎回毎回、いちいち面倒くさいな。だから何、それがどうしたっていうの。戦う理由なんてひとそれぞれ。でも目的はそこにあるんだから、そのために一緒に戦ってる。キミたちに否定される筋合いなんて、ない」


例えばそれは自己満足であったり、責任感であったり。大切な何かを守るためであったり、失わないためであったり。

帰結する場所が結局は自分のためであろうと、それをどうこう言われる筋合いなどないのだ。譲れないものがあるから、譲らない。退けないものがあるから、今こうしてここに立っている。

それをそう、確立しているからこそ、彼女は、イルは、きっぱりと言い返せるのだろう。

ストレガの言葉になど、揺るいだりしない。

ここ最近は悩みがちに見えていた彼女の、けれど芯の部分の変わらなさに、梓董は小さく笑みを浮かべた。彼女らしい。それがやはり少し、眩しかった。


「本当に愚かな人たちだ……。影時間を消すという事は、あなた方自身を消す行為に等しい。そんな事にすら想像が及ばないとは、本当に愚かし過ぎて、嫌になります」


やはり、相容れることなどできないのだろう。侮蔑と嫌悪を含んだタカヤの言葉に、彼が取り出した召喚器に、皆も対するよう身構える。そんな中で一歩、真田が足を踏み出した。


「……本番はこの後だろう? ここは俺に任せてくれ」


静かに切り出したその言葉に含まれる脆さが心配で、思わず表情を窺ってみれば、そこにはやはり憎しみの色が宿っていて。けれどそれ以上に、飲み込まれない強さのような光を確かに見つけたから。

大丈夫。そう、思えた。


「俺、じゃなくて俺たちにしてください」


僕も行きます。
真田に続いて前へと踏み出したのは天田。彼もまた、真田と同じ意志をもってまっすぐに前を見据えていた。

ひと月。決して長くはないその間、絶対に薄れはしない想いを抱えこの時を待っていただろう二人に、止める声をかけられる者などいるはずもない。

それでも。彼らなら、大丈夫なはずだから。

荒垣への想いの強い彼らが、だからこそ荒垣に恥じるようなことをしたりはしない。憎しみだけで振るう刃の虚しさを、誰よりも彼らこそが痛感したはずだから。

了承の意を込め僅か下がる仲間達に、真田と天田の雰囲気が少しだけ和らいだ気がした。ありがとう。呟けるだけ周りを見失ってはいない二人に、だからこそ任せても大丈夫だと、改めてそう思える。


「カエサル」
「カーラ・ネミ!」


進化したペルソナ。それはつまり二人の心が、より強くなった表れで。その根底が心の中にある限り、彼らが負ける要素などどこにもなかった。

想いが強さとなるのなら、誰をも想えないストレガの二人よりも、誰をも想い前を向く真田と天田の二人の方が、どこまでだって強くなれる。そう思わせる戦いの終止符は、当然のように真田達が打ちきった。


「クッ……結局、勝たれへんのか……。“与えられた”わしらは、自ら目覚めよったモンらに勝たれへんのか!」


地に膝をつき、ジンが吼える咆哮。そこに含まれる感情は憎しみなのか絶望なのか。わからないが、深く刺さった根の片鱗が垣間見えた気がした。




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