ご褒美デート



今回もまた例にもれずやってきました試験発表。

昼休みに職員室前に張り出された大きな白い紙。機械的に並ぶ文字列を追う生徒達の例にもれず、梓董もまたそれを追っていた。

捜すのは、いつも通り一番左上に早々に見つけた自分の名ではもちろんない。前回前々回の結果を踏まえ、二・三十番代に記されているであろう名前。特徴的なその名前は、見付けるまで労することはなかった。


「あ! 戒凪! あたし凄い! 二十二番だ!」


傍らではしゃぐ白い少女が、何だかとてもいとおしい。良かったね、告げながら笑いかければ、彼女はありがとうと嬉しそうに目を細めるのだった。







《10/19 ご褒美デート》







ある程度予想はできていた結果ではあるが、どうやら今回のテスト、二年生組で順位を落とさず普段通りの成績を修められたのは梓董とイルの二人だけだったらしい。アイギスは初参加だから別にしても、勉学を得意とする山岸でも今回ばかりは少しだけ順位が落ちている。まあそれでも上位には変わりないのだが。他の二人も勉強に手が付かないと言っていた割にはそこまで酷い点数だったわけではないようで、普段から底辺をさまよう伊織とて赤点だけは免れていた。……荒垣に恥じない、せめてものラインであったように思える。

三年生組は問題ないとして、とにかく今梓董にとって重要なのは、他の誰でもないイルのこと。結果を確認し上機嫌に笑う彼女の笑みは、見ている梓董も嬉しくなれるような気がした。


「おめでとう。ねえ、イル。お祝いに、今日は一緒にご飯食べに行こうか。俺が奢るよ」
「へ!? え、あ、え!? あああ、そ、それって、えっと……いやいやむしろあたしが奢るべきなんじゃない? ほら、今回もお世話になったし、それに戒凪、一番だし」


面白いほど一気に顔を赤らめて。視線を迷わせ慌てるその姿が可愛いと思えてしまう。自覚した以上、やはり意識してもらえているのだと思える瞬間は嬉しいものなのだ。


「いいよ、気にしなくて。勉強見たのも口実な部分あるし、俺の成績とかいつもと変わりないから」
「うお、天才発言……! てか、え? 口実って?」
「一緒にいれたでしょ。ちなみに、今の奢るよっていうのも口実だから、イルが気にすることは何もない」
「う、あ、あ……。あああ、もう本当……っ、ストレートすぎませんか、戒凪さん」
「そう?」


日に焼けていない白い肌が、茹で蛸のように耳まで真っ赤に染まっていて。俯きがちに逸らされた視線は、けれど少ししてちらりと持ち上げられる。

窺うような上目遣いのアオイ眼差しに、いつだったか伊織が言っていた、女の子の上目遣いは反則だという台詞を思い出した。あの頃は意味が全くわからなかったが、今なら彼の言わんとしていたことがわかる気がする。まあ梓董からすれば、女の子、ではなく、イル限定になってしまうのだが。


「え、えーと……じゃあ、ご馳走になります」
「うん」


少し小さめの声で、それでもしっかり紡がれた言葉に、自然と梓董の頬が緩む。時の流れがこんなにも穏やかに感じられるのはきっと、彼女の傍だけなのだろう。

が、心地のいいその空間に、長居をすることは許されなかった。


「つか本当、オープンすぎるだろ、お前ら。視線、集まってるぞ」
「!」


梓董からすればそんなことよりも今のこの空気を壊されたことの方が重要なのだが、イルからしたらそうではないらしい。割り込んできた声に我に返った様子の彼女は慌てて辺りを見回し、声……試験結果を見に来ていたのだろう、伊織のそれが示す状況が事実と悟り、パーカーのフードを思い切り深く被ってみせた。

……多分、パニック中だ。

今更フードを被ったところで何も変わらないだろうに。


「あああ、あた、あたし、先に教室戻ってるね!」
「じゃあ俺も戻ろうかな」
「いいい、いえ! ここは! ここはなにとぞひとりで帰らせてください!」


では! と、まるで逃げるように駆け出した白いその背に、別に気にするようなことなどないのにと、一緒に教室へ戻ることが叶わなかった不満が胸に宿る。そんな梓董の傍らに、彼女の代わりにやってきたのは、梓董にとってはこの状況を作った元凶とも言える存在、伊織だった。


「あー、なんつーの。……お前、本当はすっごくアクティブなんだな」


なんだかそんなセリフを前にイルからも言われたな。そんなことを思いながら、梓董はささやかな報復の意を込め伊織を無視して歩き出す。今は別行動になってしまったが、放課後の約束は取り付けたのだ。それを楽しみに午後の授業は寝て過ごすとしよう。

そう内心で決める梓董の頭の中には、睡眠学習となる授業が何かは全く考慮されていなかった。








[*前] [次#]
[目次]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -