なかよし記念



「ああ……ぐちゃぐちゃ音頭を覚えちゃった私がイヤだ……」
「えー、良かったんだよ、覚えられて!」
「いやもう本当、イルの感性がわからない」


中間試験も終わりを告げた今日、いつもの四人は約束通りカラオケ店にて打ち上げを催した。まだこの四人で遊ぶことにもさして慣れてはいなかった以前、機械に歌の登録もできなかった桐条も、今ではすっかり手慣れたもので。受付で機種の選択をするのは西脇や岩崎の担当なれど、ドリンクバーにも慣れたらしく、するりと動くその姿は端から見ても普通の女子高生そのものに見えるだろう。せめて自分達と遊ぶ時くらい肩の力を抜けたらいいと、西脇も岩崎ももうすっかり桐条の友人であることに躊躇いはなかった。


「でもほら、美鶴先輩もMUSESの曲とか覚えてくれたし!」
「ああ、あのグループは確かにエクセレントだ。今はもう活動していないというのが惜しまれるな」
「ですよね! リサちゃんすっごく可愛いし!」
「いやまあMUSESはわかるんだって。問題はぐっちゃぐちゃの方ね」


熱を込めるイルは相当MUSES推しらしい。というよりも、そのメンバーの一人であるリサ・シルバーマンが好きなのだろう。同意を示す桐条同様その辺りは西脇も同意見なのだが、今問題にしたのはそちらではない。

まあ何度言おうと必ず選曲に入れてくるのだから、諦めた方が早いのだが。


「さってと。カラオケも堪能したことだし……あ、ねえ、せっかくだしプリクラ撮りに行かない?」


携帯を開き時間を確認。今日は土曜で半日放課だったためまだ時間があると、提案したのは岩崎で。プリクラに関して中途半端に微妙な知識しか持ち合わせていなかった桐条へと簡単に知識補正を行いながら、皆はゲームセンターを目指すのだった。







《10/17 なかよし記念》







「うっわ、イル、すごい顔!」
「ちょ、それ言うなら理緒だってやっちゃった感じじゃん!」
「やっちゃったとか言わないでくれる!? てか美鶴先輩の変顔とかすごいレア……っ!」
「し、仕方ないだろう! は、初めてしたんだから……」


わいわいわい。四人で撮ってそれぞれに切り分けられたプリクラ。普通に撮ったり皆でポーズを決めて撮ったり……イルが言い出し変顔を決めて撮ったりしたそのシール写真の数々に気持ちが高揚し盛り上がる。気の置けない友人にだからこそ見せられる飾り気のない表情の数々が、何だかどことなく嬉しかった。

気付いていたのだ。西脇も、岩崎も。

桐条もイルも、今月初め頃から元気がなかったことに。

あれは多分、上級生の男子生徒が暴力事件に巻き込まれ、意識不明の重体であると校内に知らされた時期。たまたまそれが学校内の大きな出来事であっただけで、時期自体は偶然だったかもしれない。イルや……同級生ではあるが、桐条がその男子生徒と接点があったかどうかも西脇にも岩崎にもわからないこと。それを問うことも、二人はしなかった。

物わかりがいいわけではない。ただ、踏み込んでいいものかわからないだけ。

あからさまな秘密を抱えるイルも、イルほどでなくとも桐条にも。言えないことは、きっとたくさんあるはずで。それをさらけ出して欲しいと願うのは傲慢だ。

頼って欲しいし、それは今でも話せることは話して欲しい。だけど今は……。

傍にいて、いつも通りを通していよう。

いつか話してくれるかもしれないその時に、差し出されたその手を逃さないように。

それを単に臆病なだけだと言われてしまえばそれまでだが、でも西脇も岩崎も、二人で話しそう決めた。気にならないと言い切るには難しいが、それでも迷いはない。だからこそ、今心から笑って桐条とイルの傍にいるのだから。


「あのさ、結子、理緒」
「ん? 何? どうしたの、改まって」


ふいに談笑を途切らせて。少し真剣味を帯びたような声音で呼ばれ、西脇と岩崎は揃って首を傾げる。何? と視線も併せて問い直せば、イルは一度桐条と顔を見合わせ、それから何やら頷きあった。

そうして再びこちらに目を向けた二人から向けられる、その言葉は。


「ありがとう」


ああ、そうか。

伝わって、いるのだ。

わからなくとも、知らなくとも。

想いはそれでも、繋がっている。

それが何だかくすぐったくて、嬉しくて。でもどこか気恥ずかしくて。

西脇と岩崎はもう一度視線を交えると、共に揃って照れ笑いを浮かべてみせた。


「何言ってるの、そんな改めて」
「そうそう。ほら、早く遊ばないと日が暮れちゃうよ。ね」


岩崎がイルの手を、西脇が桐条の手を引き急かせば、二人からも返る笑み。青い春なんて言葉にするとクサいけど、それでもきっといいものなのだ。

繋いだ手の温もりに、並んだ四つの影が、暖かかった。








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