後悔よりも



放課後ラウンジに集合だとメールが届いたのは昼休みのことだった。

このタイミングでの召集だ、話す内容など容易に知れる。そしてそれは予想に違わずだったわけで……ただ。

当事者である天田の姿が、消えてしまったとのことだった。

天田を迎えに部屋まで行ったアイギスによると、窓にこじ開けた跡があったということなので、おそらくそこから自主的に出ていったのだろうと推測される。……というか、こじ開けなければ開かないようにされていたということなのだろうかと、若干色々不安になった。いや、不審か。

まあそれはいいとして。天田については、心配する山岸には申し訳ないが、自分から出て行った以上、しばらく放っておくべきだろうというのが真田を初めとした総合的な意見となった。

天田の年齢とその境遇を思えば妥当な判断と言えるかわからないが、けれどそれでもこればかりは他人に口出しできる問題ではない。相談されれば話はまた別かもしれないが、天田にしろ荒垣にしろ、この件は自分自身で抱えていた。手を伸ばされればいつでも受け止めるが、自分で乗り越えなければならない問題なのだと、自身で決めたようにも思える。今は天田の出方を待ってみるべき時なのだ、きっと。

重い空気をそのままに、けれどとりあえず一旦解散となったため、梓董は今夜の予定を考えてみる。とは言え、さすがに今は何かをする気にはなれそうになかったが。

部屋にでも戻るか。そう思ったところで、梓董を呼び止めたのは、召集にはきちんと応じたイルだった。


「ねえ、戒凪。今、ちょっといいかな」
「構わないけど、何?」
「うん、ちょっと、ね。……付き合って欲しい場所があるの」


伏し目がちに言われるが、今日は丁度特に予定もない。彼女の誘いを断る理由はどこにもないのだ。

だからこそすぐに同意し、彼女に連れられるまま訪れた場所は、長鳴神社だった。

階段を上り辿り着いたそこは、いつもコロマルの散歩に訪れる時同様、しんと静まり返っている。

イルはここまで辿り着くと、一度空を仰いでから、梓董とまっすぐに向き合った。月が照らすその顔は、少しだけ笑みを浮かべていて……いつもとは違うその質は、どこか儚さすら覚えさせる。


「……戒凪には言ったよね。何日か前に、荒垣先輩と出かけてくるって。……その時来たのが、ここだった」


ふと逸らされた視線が、砂場の傍にある段差へと向かう。何かを思い出しているのか、次の言葉が続いたのは、それから少し経ってからのことだった。


「……なんか色々思い出せてくるけど、でも、話すのはやっぱやめとくね。だって、荒垣先輩、生きてるもの。生きていて、くれてるから」


縁起でもないというのは少し過敏かもしれないが、それでも今のこのタイミングでは悼むように取れてしまうのは致し方ない。思い出話ならいつでもできる。それこそ、荒垣が目覚めてからでも遅くはないだろう。

再び梓董へと向き直り、へらりと笑みを浮かべ直したイルのその表情は、いつもの彼女らしい笑顔へと戻っていた。……それに少し、安心する。


「荒垣先輩ならだいじょうぶ。絶対に」


信じているから。また、戻ってきてくれることを。梓董やイルだけではなく、それはきっと他の皆にしても同じこと。

だいじょうぶ、荒垣なら、きっと。


「ありがとね、戒凪。付き合ってくれて。……あたし、もっと強くなるから」
「うん。俺も」


荒垣に、自分に、誇れるように。次に会うときには胸を張って笑えるように。

強く、なる。

誓うように紡ぐ二人を、月はただ青白く照らしていた。








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