かける、もの



大型シャドウを目の前にして何故二人がこうも荒垣達を気にするのか、おそらくその本意は皆には伝わっていないだろう。だが、前回の伊織の件を持ち出したことは、少なからず利をなしたと思える。桐条は真田と顔を見合わせた後、小さく溜息を吐いた。


「……わかった。確かにストレガが何も仕掛けていないとは言い切れないしな。荒垣なら心配はいらないだろうが……憂いを残しても作戦に差し支える。荒垣と天田のことは請け負おう。だから梓董達は作戦に集中してくれ」
「はい。お願いします」
「……ありがとうございます!」


頷く梓董に合わせ、イルも安心した様子で頭を下げる。その顔が上げられたのを見計らい、梓董の視線は大型シャドウへと移ろった。


「じゃ、行こう。イル、集中できる?」
「うん。ありがとう、戒凪」


強く頷き笑みを向けてきたイルに微笑を返し、梓董は宣告通り岳羽と伊織を伴い大型シャドウの元へと駆け出した。

今回相対するのは、剛毅と運命のアルカナを負う二体らしい。まるでこちらを待ち構えていたかのように、こちらが傍まで辿り着くと同時に剛毅タイプの、女性の姿を模したシャドウが動き出した。細いその腕が天へと掲げられ、傍らにいた犬を姿を模した運命タイプのシャドウが光の粒子に包まれる。


「運命タイプの反応が消失! 剛毅タイプのシャドウが何かしたようです! 今は攻撃できませんね……。まずは剛毅タイプから倒してください!」


すぐさま山岸からのサポートが入り、状況が伝えられた。ふわりふわりと球状に運命タイプのシャドウを包む光の粒子は、さながら高性能の耐衝撃バリアといったところか。反応すらも消失させたということは、ステルス機能もあるのかもしれない。

まあどちらにせよ、ともかく剛毅タイプのシャドウを倒さないことにはどうしようもないわけだが。


「とりあえず一気に畳み掛ける。イルと順平は俺と一緒に攻撃を。ゆかりはサポートを頼む」
「了解!」


まずは山岸にアナライズを頼んでおき、その間にも攻撃の手は繰り出し続けた。

女性型のシャドウという見た目からは少し意外だが、剛毅タイプというだけあり物理攻撃が得意らしいそのシャドウは、ヒートウェイブや五月雨斬りなどを容赦なく叩き込んでくる。そのダメージをすぐに岳羽が回復してくれ、間に合わないような時はイルも回復に回り、彼女は攻撃に参加しながらも隙を狙って補助として能力を高める魔法も使用してくれた。そんな形で支援は女性陣に任せ、伊織と共に攻撃に専念していると……。


「!? 戒凪、伊織くん! 危ない!」
「へ? げっ!」


イルの声に注意を巡らせるより早く、横手から伊織に腕を掴まれ引っ張られる。何事かと問う暇もなく、今まで立っていた場所に現れたそれは……。


「な、何これ!? ……ルーレット……!?」


山岸の困惑した声音が通信として届けられる。そう、梓董達の目の前に現れたのは、巨大なルーレットだった。


「なんだかわかんないけど、こんなの付き合ってる場合じゃないって!」


すぐに声を上げた岳羽の言うことはもっともだ。……もっともなのだが……。


「な、何これ……っ、体が動かない……っ」


これも魔法の一種なのか、無視して攻撃に移ろうとした体は言うことをきいてくれない。戸惑いに声を上げたのこそ岳羽だったが、それは皆同様らしい。視線だけで周囲を窺えば、イルも伊織も身動きが取れないようだった。

幸いなのか、それは敵にしても同じようで、この機を狙って攻撃を叩き込んでくる気配はない。

つまるところ、ルーレットに付き合え、ということか。

ようやくきちんと視認したそこには、何やら四種類ほどマークのようなものが描かれており、それぞれ赤と青の色に分かれぐるぐると盤の上を回っていた。何となくそのマークで何が起こるか察しはつくが……これを止めるにはどうしたらいいのだろう。


「……えーと、ストップ」
「え、ちょ、戒凪っ!?」


とりあえず制止をかけてみたところ、その適当さに驚いてかルーレットに付き合おうとしていることに驚いてか、近くにいた伊織から驚愕と焦燥の混じったような声音で呼ばれる。が、そんな適当な制止で良かったのか、ルーレットは徐々に減速してゆき、やがて……煙のようなマークの、青色の方を示してぴたりと止まった。


「あ」


気の抜けたようなそんな声は、梓董以外の全員からもれたもの。そんな皆の視線の先で、あの剛毅タイプのシャドウが状態異常、ヤケクソにかかっていた。


「え、何。これ、敵にも効果あるんだ」
「まあ体も動くみたいだし、せっかくだから便乗してボコっちまおうぜ」


呆気に目を瞬かせる岳羽と同様、軽く目を見開かせていた伊織が、それでも素早く立ち直ってそう告げる。ルーレットは役目を果たしたとばかりにどこかへ消えていったが、今はそれより伊織の言葉に同意すべきだろう。

状態異常時は、いつもよりも会心の攻撃が当てやすくなる。

まあそれは逆もまた然りなわけだが、それは今は置いておき。とにかくチャンスであることには違いないのでさっさと攻撃に移るべきだ。

そういうわけで、それから剛毅タイプのシャドウを倒すまで、それほど時間はかからなかった。


「あっ……。運命タイプの反応が再び出現! えっと……つまり……今なら攻撃が当たります!」




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