療養



「うー、本当台風見事に直撃しちゃったねー。文化祭、何気に楽しみにしてたのにー」
「まあ、予報通りですよね。仕方ないですよ、この風雨じゃ外にも出られませんし」
「天田くんてば、大人だね」
「か、からかわないでください!」


非常に強い勢力を誇る台風12号の影響で、各地に色々な注意報が出されているニュースをバックに、窓から外を眺めていたイルが溜息を吐く。それを聞き止めたのは近くにいた天田だったが、もっともでかつ至極冷静な意見は現状をより現実だと知らしめてくるだけ。からかってないよと返すイルは、やはり残念そうに息を吐いていた。

そんな中。


「あ、梓董くん、おはようございます」
「おー、随分遅かったじゃん。何? 昨日のアレで風邪でも引いた?」


山岸と伊織の声に導かれるように振り向けば、丁度階段を降りてきたらしい梓董の姿が目に映り。……気のせいか、心なしかその足取りがふらついているように見えた。


「っ戒凪!」
「戒凪さん!」


唐突に声を上げ、駆けだしたのは二人。そのどちらもがほぼ同時に彼の元まで辿り着き、それと時を同じくして、ぐらり、梓董の体が大きく傾いだ。


「梓董っ」
「梓董くんっ」


慌てる寮生達に囲まれ、梓董は自室のベッドに強制帰還させられるのだった。







《09/19 療養》







昨日の夕方、運悪く丁度雨に降られてしまったらしい梓董がびしょ濡れで帰ってきたことはまだ記憶に新しい。それこそが伊織の言っていた「アレ」の示す先なのだが、どうやら風邪を引いたは冗談などでは済まず現実になってしまったようだ。

医者を呼ぶにもこちらから出向くにしても、この暴風雨が邪魔となり、結局備蓄していた置き薬で様子をみることになってしまった。その看病を申し出たのはこれまたあの二人、イルとアイギスで。知識はあれど細やかな配慮や諸々に僅か不安の残るアイギスよりも、とりあえずイルの方がメインで付き添うことに決まる。その決定を受け、さすがにこればかりは男子部屋云々を細かく言う者はいなかった。

とりあえずアイギスはイルのサポートをすることになり、基本的な看病は二人に任せ、着替えなどはこういったことにも信頼の厚い荒垣が請け負ってくれるとのことで。そうして今、しばし慌ただしかった梓董の部屋も、ようやく落ち着きを見せてきたところだった。


「とりあえず出来ることはしたし、後はこのまま様子を見るしかないね」
「了解であります。ではこのままこちらで待機するであります」
「うん。……今は、それしかできないしね」


苦しげな呼吸を繰り返す梓董を見やり、唇を引き結ぶ。その苦しみを和らげる術を持たない自分を悔やむように、イルの眉根が寄せられた。

いくらペルソナ能力を駆使できようと、こういった時には無力でしかない。何もできない自分が悔しくて歯痒くて仕方ないのだろう。……誰のせいでもないと、わかってはいても。


「イルさん。そろそろお休みになった方がいいと思います。あなたがここを離れたのは水や氷の取り替えなど僅かな時間のみであります。人は休息しなければ生命活動に支障を来す生き物です。疲労は風邪が伝染る要因にもなるであります」
「……ありがと。でもあたしならだいじょうぶ。それよりアイギスは休まなくていいの?」
「わたしは機械です。活動の休止もできますが、しなくとも支障はないであります」
「そっか……。……うん、でもあたし、ここにいたい。病気した時とかって結構心細いものだしさ。……傍にいることくらいしか、できないから」


ベッドに横たわる梓董から視線を逸らすことなく告げるイルの言葉は頑なで。アイギスも、それ以上は何をいうこともなくただ黙って梓董に寄り添い続けるのだった。








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