秋といえば



夏も過ぎ、秋色に染まる街を臨む。空は青く空気は済み、すっかり過ごしやすくなった日々が語る、それは……。



もう目前にまで、文化祭が迫っているということ。







《09/14 秋といえば》







そして今日も賑やかに始まるラウンジでの夕食会。食事は静かに、などと厳しくいう者はおらず、割と和気藹々とこの時間は過ごされる。とはいえ、賑やか師である伊織が最近は病院に通い詰める傾向にあるから、彼が不在な日も多いのだが。

その例に漏れず、今日もまた彼が不在な食卓は、いつもの賑やかさが半減どころか三分の二は減少しているように思える。まあ、そうは言ってもこれだけ人数が揃っているのだ、全く無言で食事をするということはない。


「そう言えば、もうすぐ文化祭ですね」


切り出す役目は常に自ら話題を持ち出す伊織がいないため、周囲を気遣いがちな山岸が請け負った模様。ただ黙々と食事をするには重圧が厳しいというのもあり、その話題を疎う者はいなかった。……ただ一人を除いては。


「うわ……。それ、思い出したくなかったのに」
「なんだ? 岳羽は文化祭、嫌なのか?」
「嫌っていうか……」


盛大に顔をしかめ息を吐いた岳羽に、真田が不思議そうに首を傾げる。言いにくそうに答えを濁す岳羽に代わり、思い出した様子で声を上げたのはこの話題を振った本人、山岸だった。


「あ、そっか。ゆかりちゃん、メイドやるって……」
「ちょっ! 風花!」


がたんがたん。大きく椅子を揺らしながら慌てて立ち上がり制止をかける岳羽に、山岸も慌てた様子で口元に手をやり言葉を止める。が、もう遅い。

ごめんなさい、と申し訳なさそうに謝る山岸に、岳羽はもういいよと力なく答え、溜息一つ残し再び席に着いた。


「メイド……ああ、美鶴の家にいるようなあれか」
「いや、あそこまで本格的じゃないですけど。……はあ、弓道部のくじ引きで当たっちゃったんです。本当、ありえない……」


空気を読まないのか天然なのか、おそらくその両方だろう、今の岳羽と山岸のやりとりも気にせずマイペースに理解する真田に、岳羽はこれ以上ないほどの落ち込みようをみせる。本気で嫌なのだろう、また溜息を吐いていた。かと思ったら、何か思い出した様子で慌てて顔を上げ、僅か身を乗り出す。


「あ! あの、このことは順平には言わないでくださいね! あいつのことだから絶対面白おかしく絡んでくるだろうし」


というか、変態的に、か。屋久島でのアレを見た後ではフォローのしようもない、というより、普段の行いからしてもフォローのしようもないそれに、各々内心で納得する。ある意味さすが伊織だ。


「わ、私のことより、風花はどうなの? 何やるか決まってるんでしょ?」
「あ、うん。美術部は展示をするよ。イルちゃんは?」
「へ? あー、テニス部は和風喫茶やろうってなってる」
「へー。和風ってことはあんみつとかお団子とか出すわけ?」
「うん。メニューだけじゃなくて和装もするよ。レンタルだから気をつけないとだけど」


やはりというべきか、女子は盛り上がるのが早い。山岸の問いに答えたイルの言葉に興味津々で食い付いた岳羽は、もう先程までの不機嫌を取り払ったようだ。メニューも気になるようだが、和装という言葉にも「いいじゃん」と楽しそうに声を弾ませていた。


「あ、せっかくだし、天田くん遊びに来る? あたしでよければ案内するし、ぜんざいくらいならサービスできるよ!」
「え? あ、僕は」
「そうだね、天田くんならまあいっか。私の方でも何かサービスするね」
「あ、じゃ、じゃあ、私はイルちゃんが案内できない時間帯、交代するよ?」
「いや、あの……」


恐るべし、女子パワー。可愛い弟分でもある天田のためならこれでもかと可愛がってやりたいということなのか、当人の意見も聞かずわいわいと次々に言葉を放ち出す。困り果てる天田の様子に、さすがに見かねたのか、助け舟を出したのは荒垣だった。


「……文化祭って週末だろ。台風予報になってるぞ」
「あー、そういえばそんな話、ありましたね」


助け舟になったかならないかはわからないが、とにかく話題は少し逸れたらしい。少しばかり残念そうに返すイルに、今まで黙っていた桐条が溜息混じりに口を開いた。


「……皆、楽しみにしているからな。生徒会長としても是非開けるようにしてやりたいが……こればかりは文字通り運を天に任せるしかないだろう」
「あ、無事開けたら、少しでもいいんで一緒にまわりましょうよ、美鶴先輩! もちろん結子や理緒も一緒に!」
「そうだな。なんとか時間を作ってみようとは思う。喫茶店の方も顔を出させてもらうさ」
「わ、本当ですか! じゃあ美鶴先輩の分の着物も用意しておきます!」
「……部外者だぞ、私は」
「だいじょうぶだいじょうぶ、理緒が部長権限使います」
「そういうことに権力を使うんじゃない」


諫める言葉で閉ざしながらも、桐条がイルを見る表情は柔らかい。手のかかる妹をもった姉のような心境なのだろう、優しい眼差しにイルも嬉しそうに表情を綻ばせていた。


「あ、戒凪も来てね! 荒垣先輩と真田先輩も、よかったら是非。売り上げ貢献していってください」
「なんだ、俺達からは金を取るのか」
「天田くんは天田くんだからいいんです。あんまりサービスしすぎると理緒に怒られちゃいますし。ドリンクくらいはおまけしますよ!」


真田のツッコミも何のその。へらりと返すイルの言い分に、けれど反論は続かない。そんな調子で彼女を主に、結局今日もまた賑やかに夕食会は過ぎてゆくのだった。








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