捕縛



今度もまたやってきた満月の夜。荒垣が参入してくれたことを筆頭に、多くの仲間が集った今回の作戦は、いつにも増して心強いと皆各々感じていた。

そんな中で山岸が索敵を行った結果、今回はポロニアンモールの周辺からぼんやりとした気配を感じるとのこと。

そうして既に作戦の幕開けを迎えた今、今日が満月だということは皆重々理解しているはずなのに、何故かただ一人、伊織の姿だけが未だにこの場にない。理由を知る者もおらず、皆それを気にはかけていたが、それでも優先すべきは大型シャドウの討伐の方。……普段からの態度が関係していないとは言い切れないが、とにかく、伊織のことはひとまず置いておき、今はポロニアンモールに向かうことが先決とされた。

そんなわけで皆で向かったポロニアンモール。そこで改めて索敵を開始した山岸の能力と、アイギスや荒垣によりもたらされた情報とを合わせ、敵はこのモールの地下ケーブルを乗っ取っているのではないかと判断される。そしてその大元とも言える核となる今回の大型シャドウがいる場所は……。


「……じゃあ、今回の突入メンバーはイルと荒垣先輩とコロマルで」


指示し、向かう先は……エスカペイド。







《09/05 捕縛》







「シャドウの心臓部です! 体がケーブルですから、電気を攻撃に使ってくるかもしれません! どうか、気をつけてっ!」


エスカペイドの地下室。配電施設を備えたそこにいたのは、地に幾本ものコードを伸ばした大型シャドウ。そこからケーブルを乗っ取っているのだろう、山岸の言葉がなくともバチバチと弾けるような嫌な音を立てて、その身に光……視認すら可能な電気を纏っている。


「うっわ、バチバチしてる。触ったら痺れる程度で済むかな……」
「イル、電撃無効とか耐性のあるペルソナは?」
「えーっと……あ、ナーガラジャがいる!」
「そう、じゃあそのペルソナを基本装着にして、回復と補助に回って。荒垣先輩とコロマルは、俺と一緒に攻撃に回ってもらいます」
「……了解」


短い指示に各々了承し、皆素早く戦闘体勢に移行した。手に……コロマルは口にだが、武器を構え、大型シャドウと対峙する中、まずは山岸にアナライズを頼む。その後真っ先に動き出したのはイルだった。


「手を貸して、ナーガラジャ。マハタルカジャ」


攻撃的な潜在能力を一時的に押し上げ、補助が始動。そこからは怒涛の攻撃ラッシュが続くのみ。


「来い、カストール。デッドエンド」


荒垣の呼びかけとコロマルの遠吠えが響く中、喚び出しに応えたそれぞれのペルソナが斬撃を放ち炎を噴く。反撃の間を与えぬとばかりに梓董がクー・フーリンのミリオンシュートで追撃を与えれば、相当なダメージ量となったのだろう、敵シャドウがぐらりとよろめいた。追撃指示を出し一気に畳みかけるかと梓董が思考したその瞬間。

敵の周囲で弾ける電気の量が、増した。


「……充電、してる?」


そうとしか見えない。
周囲に飛び交う電気を、足元を流れる電気を、自身に集中しだしたその様は、どう考えてもこれから何かしでかしますよのサインだろう。功を焦り大惨事でも招けば笑えない。梓董の指示一つが、皆の安否を分けるのだから。


「全員、防御体勢を……」
「いや、今ならその必要はねえ」


皆まで言わせず否定を紡いだのは、予想外にも荒垣だった。彼は功を焦ったり、安易な選択などしないと思っていたのだが……。そんな思いで彼を見やれば、彼はにやり、と、小さく口元に弧を描きながら大型シャドウを見上げていた。

まっすぐに、揺るぎなく。確信めいた光を宿した眼差しが抱かせるのは、静かな安心感。

思い付きなどではない。彼は、確固たる自信があるからそう告げたのだ。


「……じゃあ、任せます」
「おう。……ま、やれるだけやってやるさ」


肩に担ぐ、重々しい鈍器。それが凄く様になっているというのは果たして褒め言葉になるのだろうか。

とにかく。堂々たる態度で彼が自身の側頭部を召喚器で撃ち抜けば、再びそのペルソナが姿を現した。


「……決めてやれ」


短い言の葉。それに呼応し再び繰り出されたカストールの斬撃は、鮮やかなまでに見事に敵の急所を捉える。


「うわ、すっご……。て、見とれてる場合じゃないよね。戒凪、総攻撃、いっちゃう?」
「当然」


後はもう、畳みかけるだけ。これでもかと攻撃の連打を浴びせられた敵が無事であるはずもなく。悲鳴じみた声を上げ消えゆくその姿を、皆はただ見送った。


「……なんか、いつになくあっさりしてたねー。いやもう本当、荒垣先輩百人力です。あたし、ペルソナ付け替えられるのに立つ瀬ない感じでした」
「サポートだって重要だろ。今回はたまたま攻撃役がいたってだけで、落ち込む必要なんざねえよ」
「荒垣先輩……っ! 兄貴って呼んでいいですか!?」
「……やめろ」


何というか……これはまた真田の時とは違った賑やかさだと梓董は一歩退いたところから静観する。同じ精神レベルで言い合う真田とイルとは違い、荒垣は根は面倒見のいい、良き兄貴分にあるようだ。イルの懐きようが早い。




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