ぎしりぎしり



まあ、そんなわけで。
有言実行とばかりに満月前々夜、繰り出したタルタロス。明後日は満月だからほどほどにシャドウ退治をして帰ろう。元より今回の目的は新たな仲間である天田と荒垣との連携を確認することにあるのだから。……ちなみに、だが、コロマルは既に共にタルタロスで共闘を済ませ済みだったりするのだが、それはともかく。


「……ちょ、戒凪〜……あたし、もう心が折れる。むしろもう折れてるよ〜……」


まるでテストを目前に控えた時のように。半泣きで呻きながら小声で訴えてくるイルの言葉に耳を傾けながら、ちらり、後方を振り返る。

そこではこれでもかと冷たい空気を纏った天田と、気にしているのかいないのか、平然とその横を歩く荒垣とが、互いに無言を決め込み後を付いてきていたのだった。







《09/03 ぎしりぎしり》







とにかく攻撃的なスタイルにある荒垣のペルソナ。だからこそ彼が攻撃に回るのは道理でもある。元より経験に長ける彼は状況判断も的確にしてくれ、どの敵を狙うべきかも指示なくそつなくこなしてくれた。

問題は天田の方だ。


「梓董さんはもちろん、イルさんだっていますし、僕が攻撃に回っても大丈夫ですよね」


訳すなら、回復は任せた、だろう。本来ならば天田のペルソナは回復系に長けるようだが、だからといって攻撃に完全に劣るわけではない。真田のペルソナほどではなくとも雷の魔法は扱えるし、荒垣やアイギスには劣れど物理攻撃もこなせる。更には他のメンバーが扱えない……もちろん梓董やイルは除くが、光系魔法も駆使して戦えるようで。万能型と言えば聞こえはいいが、特段大きく秀でているわけでもない攻撃を彼に頼るよりも、回復に回って欲しいというのが本音のところ。もちろん梓董やイルなら回復にも補助にも抜かりなく回れるが、二人は攻撃面にも長けるのだ、敵の弱点をうまく突き戦闘を有利に運ぶには、このメンバーなら天田が回復に回るのは定石であり安定した戦法だと思えた。それを天田が理解していないとは思えないのだが……。


「……っ、チィッ」
「荒垣先輩! ディアラマ!」


天田と荒垣の間に何があったのかは知らない。知らないが……天田に危険が迫ると荒垣が庇い、それをすぐにイルが癒やすというこの光景は、今日のこの短い間に既に何度も見受けられた。荒垣が天田を庇う様は、イルが梓董を庇う様にも似ているが、大きな違いは庇われている方にあるらしい。庇われる度に放っておいてくださいとばかりに表情を強ばらせる天田は、宣言通り敵の討伐を優先していた。それは荒垣自身の能力が高いことと、イルが素早く補助に回ってくれるからこそ大事なく済んでいるが、傾向としてはもちろん良くない。

その様は少し前のイルとアイギスの関係を思い起こさせもするが、どことなく根の深さが違うようにも思えた。

と言うのも、天田がアイギス以上に頑なに見えることに要因している。理由がわからずイルを敵視していたアイギスとは違い、本人の中ではその理由がはっきりとしているのだろう天田の方が、より一層荒垣を認めていないように見えるのだ。


「……何があったかは知らないけど、しばらくは別々にメンバーに入れた方がいいみたいだな」
「うん、あたしもそう思う」


自覚がある分、イルとアイギスのような強硬手段が善しとなるとは思えない。あまりにも活動に支障が出るようなら相応の対処を取らねばならないが、幸か不幸か仲間の顔触れも充実している。やはり、しばらく様子を見てみるしかないだろう。

本人達が何か伝えてくるなら話は別だが、今のところ当人達に任せる他できることはおそらくない。あまり触れられたくもなさそうだしと、梓董が小さく息を吐けば、イルは後ろをついてくる荒垣達を心配そうに振り返った。


「まあでも明後日ぶっつけ本番で判明するよりは良かったかな。……今度の敵にもよるけど、メンバー、考えないと」
「あ、あたし立候補!」
「はいはい」


あえて言われずとも特殊な理由でもない限り、ペルソナを変えられるイルをメンバーから外す利はないだろう。そんな思いで軽く流し、今日の目的を達成するにこれ以上は戦闘も探索も必要ないと判断した梓董は、エントランスに帰る装置を探し始めるのだった。








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