戦闘開始



それは内心の疑念とは別のところにある問い。
明確さを持たなかった故にその疑念の方は保留とし、ついでだからと別の問いを口にしてみたわけだ。

興味があっての問いかと言えば、否なのだが。


「あー、そう言えばそれっぽく見えたな。何々、剣道部、入ったわけ?」
「あのね、順平、うちの剣道部は男子部だから」
「そうだっけ?」


何やら食いついてきた伊織に、呆れ気味に岳羽が突っ込む。そうしながらも岳羽も気になったらしく、剣道やってたの? と改めてイルへと問い直した。


「え、いや。えーと、見よう見真似なんだけど……。正式に習ってたとかじゃないから、偽物だよ」
「そうなんだ。て、ついでに思い出したんだけど、イル、何か部活入った?」
「へ? 部活?」
「あれ、聞いてない? えーと、確か今ならバレーかテニスなら再募集かかってたはずだよ」
「……へー。……帰宅部がいいな」
「若いんだから、順平みたいなこと言わないでよ……」
「え!? 何今オレさりげに貶された!?」


イルと岳羽の脱線気味な会話に伊織が参入。
これはその内収集がつかず、より脱線を極めそうだと内心で溜息を吐いた梓董は、自身が巻き込まれる前にと散開を指示する。


「……敵の撃破優先で。念のため、イルは今日は俺と行動して」
「え、まだやんの!? 今日はお開きかと思ったのにな〜」
「まあでもわざわざここまで来て一戦闘で帰るっていうのもアレだし、レベルアップしていった方がいいでしょ」
「あー、まあ、確かにな」


口々に答えながら伊織と岳羽は指示通り、各々奥へと進んでいく。この辺りの階層ならば、各個でシャドウ撃破に向かってもさして問題はないだろう。
岳羽はともかく、回復手段に欠ける伊織の体力だけは注意しておくことにする。

残った梓董も、イルを連れて奥へ進もうとしたところ。視線を向けた先で、彼女がにこにことどこか嬉しそうに微笑んでいたことに気が付いた。


「……何?」
「あ、ううん。思ってた通りで嬉しかっただけ」
「はあ?」


どういう意味か解らず訝しむ梓董に、イルはやはり笑うだけ。
問いには答えず、通路の奥を指し示した。


「さ、行こう。頑張らないと岳羽さんや伊織くんに置いていかれちゃうしね」


……このイルという少女、やはり掴めない。

そう思いながら溜息を一つ吐き、お得意のどうでもいいことにそれを収め、梓董もタルタロスの奥へと向かった。













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