育む輪



「あの、私達も美鶴先輩って呼んでいいですか?」


顔を見合わせ意思確認をするように頷き合った西脇と岩崎。代表してそれを口にしたのは西脇の方で、けれどやはり想いは同じらしい岩崎も、西脇同様まっすぐに桐条を見つめていた。

もちろん、それに対する答えも決まっている。

この暖かな場所を、優しい二人を、桐条もまた大切に思っているのだから。


「ああ、もちろんだ。……結子、理緒」
「!」


少しだけ照れくさそうに。はにかむように口にした名前。桐条がそうして紡いだその名前に、西脇と岩崎がこれでもかと目を見開く。そして二人ほぼ同時に嬉しそうに破顔した。


「なんかちょっと照れるけど……いいね、こういうの」
「じゃ、よかったついでに結子と理緒もお互い名前で呼ぼうか!」


ふふ、と、小さく照れ笑いを交わす岩崎と西脇を目に、ほんわかとした和やかな空気を続けさせてはくれないらしいイルが、悪戯めいた笑みを口元に刻み声を上げる。そういえば西脇と岩崎はお互いを名字で呼んでいるなと桐条が思い返すと同時、当の二人はぴしりと表情を強ばらせた。


「え、や、ほら、私達は今更だし」
「そうだよね。もうクセみたいなものだし」
「だいじょうぶだいじょうぶ、今からそのクセ改めれば。今更なんてこと全然ないよ!」


交わす笑みを乾いたものに変え。改めて顔を見合わせる西脇達は、むしろこちらの方が気乗りしないようだ。たかが呼び名はたかがなどでは決してないと先程認識したばかり。気持ちの問題には変わりなくとも、この際西脇達も呼び名を改めてもいいのではないか。

というかむしろ改めろ。そんな気迫をイルの笑顔とその言葉から感じ取り、隣に立つ桐条は一人、小さく苦笑した。

まあ、桐条を名前で呼び、イルはともかく西脇と岩崎が互いにいつまでも名字で呼び合うというのも気になると言えば気になるもの。名前で呼んでもらえた方が嬉しいことは、それこそつい今し方桐条に紡いでもらったことで身をもってわかっている。

つまり、だ。


「……え、えーっと、ゆ、結子?」
「り、理緒。……ってもう本当むしろこっちの方がよっぽど気まずいんだけど」


う〜、と視線を落として呻く西脇と、その言葉に苦笑しつつ頷く岩崎。満足そうに笑うのはイルだけで、けれどそんな皆を桐条は微笑ましく眺めていた。


「よっし! じゃあ記念にカラオケでも行こうか!」
「何の記念? てか、記念がカラオケなんだ」
「あたしは今とても歌いたい気分なんです。それと、美鶴先輩の美声が聴きたい気分なんです」
「び、美声……? イル、私はそんな」
「あ、それなら賛成ー! 久々四人で行きますか、カラオケ!」


呆れたように岩崎がつっこむが、そこはイル、全く気にすることもなく。そんな彼女の言葉に桐条が抗議するより早く西脇までも同調したものだから、期を逸してしまう。

とはいえ、四人で遊びに出かけるということ自体久しぶりなのだから、桐条も強く否定する気など全くないのだが。


「あまり遅くならない内に帰るんだぞ」
「わかってますって! さー、行きましょう!」


息を吐き、それでも浮かべる表情は穏やかに。せめてもの桐条の言葉に後輩三人は揃って頷き、善は急げと歩を進め出す。

忙しい日々にももう慣れてしまっていたが、やはりこうして同年代の友人と遊ぶことができるというのはかけがえのない大切な時間なのだ、などと。思う桐条の足は、迷うことなく三人の後に続いていった。








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