続・映画祭



「……てかあたし、つい三日前に映画観たばっかりな気がするんだけど」
「何、イル、岩崎には付き合えて、私には付き合えないわけ?」
「めめ、滅相もございません! わーい、映画、楽しいなー」
「いやいやイル、そこまですると痛いから」


岩崎に付き合い映画祭に参加したのはつい三日前。まだまだ記憶に新しいそれを小さく口にしたイルを西脇がじとりと睨みつければ、イルはすぐに首を振り乾いた笑みを浮かべた。それによろしい、と満足そうに笑い頷いた西脇の隣で岩崎が小さく苦笑していたが、西脇の機嫌を損なわなかったことにイルは安堵できた様子。


「じゃ、行こうか」


にっこり。笑って告げる西脇に促され、三人は再び映画館の入口をくぐるのだった。







《08/21 続・映画祭》







今日のテーマはスポーツ特集。ひたむきにスポーツに励む人達の青春ドラマを描いた作品達だった。いかにも西脇が好きそうなその内容に、けれど自身らも運動部として活動を頑張る身であるからか、イルも岩崎もなかなかに楽しんで観覧できたようだ。前回のパニック映画特集……いや、キャッチフレーズ的には特集ではなく地獄だったようだが、まあそれはいいとして。とにかくそちらに関しても三本立てで少しばかり気が滅入ったことを除けば、その内容は最終的にハッピーエンドで締めくくられていたし、それなりの爽快感を得られる演出もあったしで、結果的には楽しめた。

つまるところ、どちらも満足のいく一日、有意義な一日を送ることができたということだ。心残りはやはり、どちらも共に桐条が多忙により不参加だったということか。あまり言っても仕方ないし、桐条を責める気は更々ないので、西脇達の誰一人それを口にはしなかったが。


「うーん、やっぱり映画もいいものだよね」
「まあね、なんだかんだ見始めればのめり込んじゃうし」
「結子と理緒のチョイスも良かったんだと思うよ」


ある意味定番となりつつある、定食屋わかつ。女子高生としてこの食事処のチョイスはどうなのかとも思われるかもしれないが、運動部に所属する者であれば割と彼女らに限らずここを利用しているし、事実味もなかなかに良いのだから本人達は気にしていないようだ。

そんなわかつで夕食をとりつつ談笑に花咲かせる三人は、満足そうに頷く西脇に躊躇いなく同意し、今日と先日の映画の内容を語り合う。ちなみに、だが、今日も先日も寮の食事に関しては山岸達に休暇をきちんと伝えてあるので心配はない。


「あたし、映画を観る機会自体あんまりなかったけど、こうして友達と観に行くってのも楽しいね」
「そうだね。こういう催しをしてくれるからっていうのも大きいし」
「あれ、そういえば、イルってここに来る前どこにいたの?」


ふ、と、思い出した様子で首を傾げた西脇。イルの言葉から察するに、彼女の住んでいた場所では映画祭など行われていなかったように思われる。単にそういったイベント事からは疎かっただけかもしれないが、彼女はもしかしたらここから離れた場所から転校してきたのかもしれないとも思えた。思い返せば、転校してきたという事実を知っていただけで、どこから来たとかそういったイルの過去の話を聞いたことがなかったなと思い至る。別に知らなくても特に支障もないことではあるが、思い付いたからには問うてみようと西脇は考えたわけだ。

深い意味はない、何の気なしに吐かれた問いは、けれど何故かイルを戸惑わせるには充分だったらしい。


「え? えーっと、そ、その辺?」
「何、その辺って」
「その、七姉妹学園、とか」
「へー、セブンス? いいじゃん!」
「……だったらいいな、なんて」
「願望!? もー、何なの、焦らしてるわけ?」


右往左往する視線同様、ふわふわと上滑りするイルの言葉に、西脇も岩崎もつっこむやら呆れるやらで。そんな二人にごめん、と、肩を落とすイルの姿はどう見ても心から申し訳なさそうに見えた。そんな彼女に西脇達がもらすのは、共に小さな溜息。けれどそれはイルの態度に憤ってのものではなかった。


「ま、言いたくないならそれで構わないけどさ。別にイルとの仲が変わるわけでもないし」
「うん。イルの秘密事なんて今始まったことじゃないしね。まあ、話せる時には話して欲しいけど」
「結子……理緒……」


別にイルを追い詰めたいわけではない。隠し事の一つや二つ誰しにもあるものだし、全部を暴きたいだなんて傲慢だ。それは確かにイルの隠し事は他人に比べて多すぎる気もしないではないが、だからと言ってそれを知ろうと知るまいと、今ここにいる彼女が西脇達の友人であることに何一つ変わりはない。イルの過去が、今ここにいるイルを織り成す定義を壊し否定する要素にはなりえないだろう。

西脇達が西脇達であるように、イルもまたイルなのだから。

まあ、岩崎が言うように、話せる時には話して欲しいとは願ってしまうが。


「結子も理緒も、本っ当だいすき! う〜、あたし、果報者だあ」
「あれ、イル、果報者なんて言葉知ってたんだ」
「酷っ!?」


冗談冗談。笑う岩崎の隣で西脇もつられるように笑みを浮かべる。からかわれたことに小さく呻くイルの姿がまた、笑いを誘った。

何でもないようなこんな時間が、けれどとても穏やかで楽しいから。今はそれで充分だ、と。

イルを宥めつつ西脇はひそりとそう思うのだった。








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