戦闘開始



彼女はそのまま自身のペルソナの名を紡ぎ出すと……。



躊躇いなく、引き金を引いた。



ぱきん、と高く弾けるような音が響き、現れたのは手枷を付け、目と口を封じられた髪の長い女性の姿をしたペルソナ。
あれがイルのペルソナ、アングルボダ、なのだろう。


「アギ」
『よし、弱点にヒット』
「イルちゃん、もう一回〜!」


アングルボダによる炎属性の攻撃を受けダウンする敵を見、伊織が軽い口調ではやし立てる。
応えるようにイルはアギを使用していき、対峙していた四体のトランスツインズを全てダウン状態にした。


「来た! 総攻撃チャンス!」


岳羽が声高に攻撃の絶好の機会であることを告げるが、イルは少し悩み。それから小さく首を振った。


「んー、それじゃ訓練としては駄目だよね。実戦なんだからって考えたらそれが一番良いんだけど……。幸い、梓董くんが先制取ってくれたことだし、一応物攻行かせてもらうね」
「そっか。わかった」


イルの言葉に岳羽も同意を示し。イルはここに来る前に自ら選んで桐条に与えてもらった剣を両手で構える。

その構えは、剣道のそれによく似ていた。


「たあっ!」


微妙に間の抜けているようにも思えるかけ声だが、基本的な足捌きや剣の振り方などもやはり剣道を模したような動きで。


『敵、一体撃破』


桐条の声が状況を伝えたところで、残りを梓董がマハラギで倒す。


「え、ちょ、戒凪!? いいのかよ、イルちゃんの出番取っちゃって!」


今日はイルの訓練なのにと声を上げる伊織に軽く視線を向け、それから梓董はイルへと視線を移し、変わらぬ口調でさらりと答えた。


「……問題ないみたいだし」
「うん、だいじょうぶ」


口元で大きく笑みを刻んで頷くイルを目に、伊織は僅かに戸惑った様子を見せながらも「まあ、確かにな」と小さく頷く。
そんな三人のやりとりに、今度は岳羽が口を挟んだ。


「……イルって本当、何者? 慣れすぎてない?」
「そう?」
「何か……初めてじゃない感じがする」


怖かったりしないの? と問う岳羽にイルが返したのは小さな苦笑。それはどこか己に向けたもののように思えた。


「そんなこと、言ってられないし」


告げられた言葉は軽い口調のまま紡がれ。それは確かにその通りでもあるのだが……。
まあ、確かにねと返して納得を示した岳羽とは違い、梓董はどこかイルの返答に違和感を覚える。
何が妙、という明確なものではないのに、何故だろう。

飄々として見える彼女が、どこか焦っているようにも見える、なんて。

梓董の視線に気付いたのか、イルが梓董へ目を向けながら小さく小首を傾げてみせた。何? と問いたそうな彼女の様子に梓董は静かに口を開く。


「剣道、やってたのか?」




[*前] [次#]
[目次]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -