映画祭



《08/18 映画祭》







「イルー! こっちこっち!」
「うわっ、早いね、理緒も結子も」


今日も今日とて白い少女。遠目にも割とわかりやすい彼女の姿を見つけ、手を振って呼びかければ、彼女は少し慌てた様子で駆け足で近寄ってきた。


「早いって言っても私達だってほんの五分前に来たとこだよ。待ち合わせ時間にはまだあるんだし、慌てなくていいのに」


忙しなく駆けてきたイルに優しく笑い告げた岩崎は、チケットを買ってこようと西脇とイルを促す。示す先は今まで背にしていた大きな建物、映画館。今ここでは夏休みの一大企画、映画祭が催されていた。岩崎らはかねてからの約束もあり、今日のテーマの方も丁度岩崎の興味をそそるとのことで、その約束の実行に移ったのだ。


「で、今日のテーマ、何だっけ?」
「パニック映画特集だって」
「パニック映画? ってどんなジャンル?」


西脇の問いに岩崎が答えるが、その言葉にイルは聞き覚えがないのか軽く首を傾げる。もしかしたらあまり映画に馴染みがないのかもしれないと、岩崎は小さく微笑した。


「なんかこう、みんな混乱してパニックになるような事態が起こる、とか……うーん、観ればわかるよ」
「そうだね」


確かに。あまり深く訊いて映画の内容にまで触れてしまったら、これから観る楽しみが減ってしまう。だからこそ早々にその話題を切り上げれば、今度は西脇が口を開いた。

映画祭という催しのお蔭か、チケットカウンターの前はそれなりに列が連なっており、談笑はいい暇つぶしにもなるのだろう。


「それにしても、桐条先輩、残念だったね」
「ああ、うん。先輩も来たがってたよ。せっかく結子や理緒と遊べる機会なのにって」
「桐条先輩のことだし、受験とかは心配ないだろうけど、それでも生徒会や桐条グループのこととかもあるしね」


残念そうに視線を落とす西脇も、イルと共に仕方ないよと告げる岩崎も、もうすっかり桐条と遊ぶことに抵抗はないらしい。

桐条の多忙さを思い、大変そうだと心配しながらも、やはり少しくらい一緒に遊べたらいいのにと願う気持ちがあることは否めない。それは桐条にしても同じなのか、少しくらいは時間を作り、一緒に映画祭に行きたいと言ってくれていたらしいことを、岩崎達もイルから聞き知っていた。だからこそ今回のことを残念には思っても、また次回の機会を楽しみにもしているのだ。


「桐条先輩の都合がいい日、わかったらなるべく早く教えてね。うちらの方で合わせるからさ」
「そうそう。って、あ、ほら、順番来たよ! いい席残ってるといいね」


西脇に同意したところで自分達の順番が回ってきたため、岩崎が促してカウンターまで進んでゆく。それなりの位置にある席を三つ確保しながら、次はそれが四つになればいいな、と、岩崎は一人ひそかに願うのだった。









[*前] [次#]
[目次]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -