報告



「やっぱり、イルなら大丈夫だったね」


にっこりと、まるで我が事のように嬉しそうに笑う小さな少年の笑顔が、月明かりの下ただ静かに闇の中照らし出されていた。







《08/07 報告》







今宵の影時間もまた梓董の元を訪れていたファルロスは、用だけ済ませるともう慣れた様子で躊躇うことなく屋上へと向かう。そこで彼を待っていたのは、やはり例の如く白い少女だった。


「こんばんは。また会いに来たよ」


ふわり。告げた言葉に振り返った彼女は、もう幾度も会っているというのに相変わらずどこまでも嬉しそうに微笑んでいて。その笑顔に触発されるようにファルロスもまた喜びがこみ上げてくるような感覚を覚えながら、彼女の傍らに並び腰を下ろす。

屋上の縁で揃って見上げる金の月は今夜もまた煌々と輝いていた。


「今夜も戒凪の部屋行ってきたの?」
「うん。終わりの話と、ああそうそう、イルにも伝えておかないとね」
「? 何を?」
「毒のある花について」


今宵、ファルロスが梓董へと告げに来た話は二つ存在する。一つはいつものように、やがてくる“終わり”について。そしてもう一つが……。


「毒のある花?」


反芻され、頷く。終わりについてはいつもわかっているような素振りを見せるイルが、これについては小首を傾げて不思議そうな表情を見せた。

彼女は一体どこまで知っていて、何を知らないのだろう。不思議な少女だ、と、自分のことを棚に上げ思うファルロスは、けれどそれを口にすることもなくそのまま続けた。


「もうすぐ毒のある花が芽を出すよ。向かいの花壇に3つと、彼の庭に1つ、ね。それが“終わり”と関係あるかは今はまだわからないけど、何かわかったらイルにも知らせに来るよ。とにかく、気を付けてね」
「うん。わかった」


毒のある花が何を示すかその詳細はわからないが、けれどイルは欠片も疑う様子を見せることなくすぐに頷いてくれる。手放しに信じてもらえるというのは少しばかり戸惑う反面、嬉しくも思えた。


「あ、そうだ。あたしもファルロスに報告があるんだった」
「報告?」
「うん。ほら、前に話したアイギスのこと」


ああ、確かイルにダメだダメだと告げ梓董と近付けないようにしているという対シャドウ兵器のことだったか。あの話を聞いた時は疲れて見えたイルが、今日はどこか晴れやかにも見える。

これは進展があったという証拠だろう。しかもきっと、良い方に。

そんな予測を立てながら耳を傾けるファルロスに伝えられた話は、やはりその予測に違うことはなく。アイギスと和解できたと嬉しそうに笑うイルに、ファルロスもまたにこやかにやっぱりね、と返した。


「うん、ファルロスが言ってくれた通りだったね」


ありがとう、と声を弾ませるイルに照れくさく思うより当然の結果だったのだろうなと、ひそり思う。会って言葉を交わした回数を数えればそれは決して多いとは言えないけれど、そう確信させる何かをイルという少女は確かに持ち得ているのだ。


「そろそろ時間だ。もう行かないと。……ねえ、イル。僕は何があってもイルと彼の味方だから。だって、友達、だからね」
「ありがとう。あたしも戒凪とファルロスの味方だよ。何があっても、ね」


返すイルは確かに笑みを浮かべているというのに、その瞳に宿る意志の強さは一体何か。ファルロスがわかることで彼女がわからないこともあるようだけれど、彼女が秘めているもののその全貌はファルロスにはわからないということもまた事実だった。

けれどそれを暴きたい、などとは思わない。何故なら彼女はファルロスにとって大事な“友達”だから。

まあ、気にならないこととはイコールにならないのは仕方がないことだろうが。


「じゃあ、またね」
「うん、また」


いつか。彼女が抱えるそれをわかることができる日が訪れるだろうか。

そんなことを思いながら、ファルロスは一人、夜の闇の中へと身を溶かしていった。









[*前] [次#]
[目次]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -