戦闘開始



深夜0時。
針がその時刻を示す頃、夜闇が支配する刻は変化を遂げる。
一般的には存在しないとされる、影時間と銘打たれたその時に、この街の高校、月光館学園はその姿を変えた。



タルタロス、と呼ばれる、巨大な塔に。










《4/30 戦闘開始》









一応、今現在現時点での最高到達階数は行ける場所まで行ったことになるのだが。今日は新人であるイルの訓練のため、皆はここを訪れていた。

シャドウと呼ばれる人外の化け物を相手にできるのは、影時間に適性があり、かつペルソナと呼ばれる能力に目覚めた者達のみ。

ペルソナとは、己の仮面。もう一人の自分を意味する戦うための力なのだが、その力を扱うためには、少しばかり勇気が必要だったりする。
媒介となるのは召喚器と呼ばれる道具だが、それは……。

銃の形を、しているのだ。

それを自らの頭に向け、そして自ら引き金を引く必要があるというのだから、並の精神でできるものではない。
例え弾は入っていないと知っていようとも、死を連想させるその行為に岳羽や伊織は思わず後込みしてしまったくらいだ。

……梓董は平然とやってのけたが。

とりあえず、そういう理由から、まずは戦闘に慣れるようにとここに赴いたわけだったりする。


「……ところでさ、イルのペルソナって何?」


私のはイオって言うんだと加えて告げる岳羽に、イルはきょとんと目を瞬き。俺のはヘルメスって言うんだぜと続ける伊織の言葉を聞いているのかいないのか、梓董へと振り向いた。


「契約者の鍵」


ぽつり。
呟かれた彼女の言葉は、岳羽や伊織には意味のわからないものだったが。

伝わった梓董の双眸が若干見開かれたのを見て、イルは微笑む。


「今はとりあえずアングルボダ、だよ」
「え? 今は?」
「うん」


どういう意味かときょとんとする岳羽と伊織を気にすることもなく、イルはそのまま会話を打ち切る。その後二人が更に問う暇もなく、丁度進もうとしている道の先にシャドウの姿を見つけ、梓董が駆け出した。
今日の目的は訓練にあり、それはイコールシャドウを討伐することに繋がるわけで。
どうせ戦うならば効率よく先手をとって戦いたい。
その梓董の判断通り、彼の右拳は相手に気付かれる前に素早く敵を捉えた。


「……伊織と俺は待機、岳羽は回復に回る。イル、わからないことは?」


今回の訓練はあくまでイルのためのもの。皆はそれに付き合っている立場になるので、指揮を取る梓董がそう指示し、イルに問う。
初めての戦闘だと思われるが、イルは動じることなく「だいじょうぶ」と返した。

正直、拍子抜けしてしまう。

普通はもっと怯えるなり、手本を見せるよう頼んだり、せめて援護を頼みそうなものなのに。
かと言って、イルの告げた大丈夫は実力以上の無謀さを発揮する前兆にも思えず。



本当に、だいじょうぶ、そうに見える。




「んじゃ、とりあえず弱点教えてもらっていいですか?」
『了解。そいつなら以前にアナライズしてあるな。弱点は炎だ』
「あ、ナイスタイミング〜。っと、ありがとうございます、桐条先輩」


ナビ役を務める桐条に敵の弱点を聞き礼を告げ、それからイルは迷いなく召還器の銃口を自らの側頭部に突きつけた。




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