利害一致



「退屈かどうかなんて他人に決められる筋合いはない。日常は尊いものだよ。一方的に決めつけて勝手なこと言わないで」




凛。

ああほらやっぱり。
この声はどこまでもまっすぐで……強い。

耳に心地よく過ぎたその声に、梓董は緩やかに傍らを見やる。正直、梓董にとってはストレガの話も、誰が刺激的な日々に魅力を感じていようともどうでもいいことだったが、強いアオを鋭く細めストレガの二人を睨みつけるイルの言葉には興味を引かれた。

皆が後ろめたさに視線を迷わすその中で、彼女のアオは欠片も揺るいではいない。ただ強く……強く、何かの意志を宿していた。


「お前らは“個人”の目的しかあらへん。どいつも本音はその為に戦っとる。お前らの正義は、それを正当化する為のただの“言い訳”や。そんなんは“善”やない……ただの“偽善”や」


イルの言葉を、その瞳の強さすらも否定するその言葉は、黒々とした重みを纏って侮蔑的に吐き出され、吐き捨てられる。嫌悪を通り越した憎悪を向けてくる彼は、確かジンといっただろうか。彼にも彼なりの想いがあるようだが、それで譲るようなイルではなかった。

あくまで、アオは揺るがない。


「そうだよ。自分の想いのために命かけて何が悪いの? 善悪なんてどうだっていい。結果をみてそれを決めるのは第三者でしょ。キミみたいに偽善だと思ったって別に構わない。誰にどう思われようが、あたしはあたしの想いのために止まらないし戦い続ける」


どれだけ潔いのか。いや、単に単純なだけなのか。

どちらともとれるし、けれどやはり変わりないその姿に、梓董は知らず口元を緩める。やはりきっと彼女は変なのだ。

イヤな意味、などではなく。


「なら、せいぜい、あがきや」


苛立ったのか呆れたのか。一度顔を歪めたジンは嫌味にそう残すと、タカヤと共に後方へと下がってゆく。

かと思った次の瞬間、重々しい音を響かせ、この地下施設の入口……今の状況から考えると出口の扉が閉じられた。慌ててその扉に駆け寄った真田が僅かの後に小さく悪態を吐いたことから完全に閉じ込められてしまったのだろうと知れる。

彼らの立ち位置からして、元よりそのつもりだったのだろう。前回といい誰か閉じ込められやすい体質でも持っているのではなかろうか。などと下らない思考は置いておき、閉じ込められようがここに来た目的は遂行できるわけだから気持ちを切り替え本来のその目的の方へと移る。


「じゃあ突入する前線メンバーはイルとアイギスと桐条先輩で」
「へっ!?」


冗談でも何でもなく切り替え早く梓董が下したそれに、案の定というべきか当然の如くイルから戸惑いの声が上がった。声を上げだのこそ当の本人であるイルだったが、不安や戸惑いは他の皆にしても同じようで。さすがに大型シャドウ戦でイルとアイギスを共に戦わせるというのは無理があるのではないか。そんな視線をひしひしと感じながらも、もちろん全く動じたりしないのが梓董という少年だ。


「イルと桐条先輩は前回待機してもらったんで、今回は参戦してもらいます。アイギスも初めての大型シャドウ戦だし一応感覚掴んでもらおうかと思う。……イル、大丈夫だから」


今回のメンバー選抜の理由を簡単に述べ、それから梓董はイルの肩を軽く叩く。

大丈夫。その言葉に顔を上げたイルはちらりとアイギスの様子を窺い、それから小さく頷いた。


「戒凪が言うなら」


信じる、と、微笑む彼女に頷き返し。気持ちを改め、前線メンバーに決まった者達は待機メンバーに見送られ奥へと進む道を歩き出した。

施設、というよりも坑道のように思えるここは基本的に一本道で出来ているようで、まず迷うことなく大型シャドウの元まで辿り着けそうだ。皆各々自分の得物を手に駆け、時々入る山岸からの通信を聞きながら大型シャドウの元へと迫ってゆく。

その途中。駆ける足を止めず切り出したのは、桐条だった。


「……イルは、揺るぎないな」
「へ? どうしたんですか、いきなり」
「いや。さっきのイルの言葉、私には眩しく思えてな……」


桐条もきっと、戦う理由は自分の中で抱えている。それこそが彼女にとっての行動理念であろうし、また命をかけるに値する理由なのだろう。

けれど彼女もまた、ジンの言葉に言い返せなかった一人でもあり。それは、彼女も少なからず本当の理由を「大義名分」で侵してしまっていたからだと思われた。

だからこそ彼女にしてみれば、そんな「大義名分」など知ったことかと声高に言い切ったイルの姿が眩しくて仕方がなかったのだろう。




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