利害一致



丸く丸く、満ち満ちた黄金色した真円に、今回もまた時が来たのだと知らされる。







《08/06 利害一致》







巖戸台の北の外れ、廃屋が立ち並ぶその一帯が今回の舞台となるらしい。アイギスに搭載されたこの辺りの地形や建築に関する情報によると、そこには以前、陸軍が地下施設を置いていたという記録があるとのこと。十年間更新が行われていなかったというその情報にはつっこみどころがあれど、山岸のペルソナがその地下に反応を捉えたというのだからとりあえず向かってみるより他ない。

状況が不透明だからという理由から正式な前線メンバーは現地で決めることになり、皆で駆けつけたその現場。重々しく重厚な扉を抜け辿り着いた入口で、山岸が軽く辺りを見渡した。


「ターゲット、この辺りの筈なんだけど……」


見たところ、奥に進む道もあるようだし、その奥にいるのかもしれない。ここら辺で奥へ突入する前線メンバーを決めるべきか。

そう考えた矢先。ふいに知らぬ声が皆の耳朶を打った。


「お見事です……」


静かに、けれどしっかりと空気を震わせ響き渡ったその声を耳に振り返れば、先程自分達が入っていた入口の扉付近に二つの人影が現れる。青髪の少年のちょっと危うげな額辺りはこの際放置するとして、もう一人の出で立ちには普通の一般人ならつっこむことだろう。

何故、半裸なのか。

季節柄夏ではあるし、確かにこの影時間内なら一般人に出会うことはまずない。肌を露出したい趣味を持つなら絶好の機会だと言えるだろう。灰色の長いウェーブがかった髪を靡かせる頭部にもつっこみどころがあったりするが、しかしながらそれをつっこむ者はこの場にはいないらしい。

皆寛容なのか何なのか、何故かごく自然に話が進み出す。

ひとは見かけではないと、そういうことだろうか。


「私の名はタカヤ、こちらはジン。“ストレガ”と、我々を呼ぶ者もいます」


後方支援型で察知能力に優れる山岸のペルソナにも何の反応も引っかからせず現れたらしい彼らは、戸惑う山岸のことも気にせずさらりとそう名乗る。ストレガ、というその名はどこかで聞いたような気もしないではないが、それよりも梓董が気になったのはすぐ傍にいるイルの反応。

戸惑いと疑念の濃いこの場において、彼女はただ一人、明確な敵意のみをストレガと名乗る二人へと向けていたのだ。

距離的に直接攻撃に向かうよりペルソナに頼った方が効率的。だからこそだろう、彼女の手は腰から提げた召喚器に添えられている。いつでも抜ける準備は万端といった様子だ。

もしかして、彼女は知っているのだろうか、あの二人のことを。

訝しむ梓董と様子を伺うイルの目の前で、それでも状況は時を追うごとに動いてゆく。


「さて……今日までの、皆さんのご活躍、陰ながら、見せて頂きました……」


人はそれをストーカーと呼ぶのではなかろうか。などとつっこむ者は相変わらず一人もおらず、タカヤと名乗ったストレガの片割れは、胡散臭くも悪意に歪んだ歪な笑みを大きく口元に刻み、次々と言葉を続けていった。

梓董達が行う、人々を守るための善なる戦いをやめろ、と。

つらつらと言葉を重ね伝えたそれに、いつ誰が善なる戦いだなどと傲慢もいいところな発言をしたというのか不思議に思う。人々を救う、というのは影人間と化してしまう人達、化してしまった人達を助けているその行為に対しての言葉だろうが、梓董にしてみればそれは目的などではなく、行動に付随してくるおまけ的な感覚でしかない。流されるままにシャドウを討伐していると、結果的に影人間が減ったりする、ただそれだけなのだ。

ストレガはシャドウが消えれば影人間達だけではなくこの「力」も消えてしまうかもしれないという。彼らがペルソナ使いであろうことはこの影時間の中で平然と動き、そしてタルタロスのことやシャドウについて惑いなく語ることから察すに容易い。そんな彼らにとって、ペルソナが使えなくなるということはよろしくないことのようだ。

シャドウがいようがいまいが、どの道人が存在する限り人同士で争いあうことは止まらない。彼らの主張はそれを前提にシャドウのことなど放っておき、それよりも別に気付くべきことがあるだろうと続けられる。


「前の退屈な日常を取り戻したいですか?」


嘲るような、試すかのようなその響き。それを宿しタカヤは言う。

影時間を知る前よりも今の方に、一層の充実感を感じているだろう、と。

普遍的な日々を退屈と感じることはきっとさして珍しくもない。そこに落とされた刺激に、例え不謹慎だとしても高揚感を覚えることは不思議でもなんでもないだろう。ただそれを自覚しているかいないかで違いは生じ。そこからやはり倫理的に認めたくないという思いも生じることから、この場の多くの者達が言葉を詰まらせる。

そんなことはない、と、強く言い切れるほどに純粋な想いだけでこの場にいる者は……。




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