頼れるのは自分だけということか
「……イルは仲間だ。それを否定するなら俺は君の方を認めない」
キツい言い方だろうか。だとしても訂正する気は更々なく、アイギスが尚も頑なにイルを認めようとしないのなら、彼女と共に戦うつもりすらなかった。
つまり、彼女を今後のタルタロス探索メンバー及び満月時の大型シャドウ戦のメンバーに選ぶことはないということ。
私情ではないかと言われればもちろん完全な否定はできないが、それでも仲間内で妙な警戒心が生まれればいざという時にどうなるかわからない。要らぬ危険を回避するという意味でも必要なことだろう。
そこにイルではなくアイギスを外す理由もきちんとある。ペルソナ的な意味合いもそうだが、何よりイルはアイギスを敵視も警戒もしていない。完璧にアイギスからの一方通行なのだ。
「……それでも彼女はあなたにとってダメなのであります」
揺るがない。今度はいつものように真っ直ぐに向けられてきたアイギスの視線を受け、梓董は小さく息を吐く。
本当に、どれだけ融通がきかないのか。
先程考えた通りアイギスを完全に種々のメンバーから外すでも構わないが、それでは何かあった時に困るかもしれない。それに何より。
彼女とて、仲間なのだ。
仲良しこよしの友情を望む気は更々ないにしても、命を預けあう存在ではあるわけで。だからこそ、できれば要らぬわだかまりや柵(しがらみ)は極力減らしたいと思うのだ。
ただでさえ、この寮内はそういった傾向が少なくはないのだから。
そんなわけで梓董が思案し導き出した妥協案。それは……。
「……次の大型シャドウ戦、メンバーにイルとアイギス二人共入れるから」
危険な賭、なのかもしれない。次の敵がどういった相手かはまだわからないが、常に命を賭けて戦っているのだ。強力な敵を前に、協調性を欠くメンバーで果たして勝つことができるのか。
おそらくこの人選を聞けば、他の皆は一様に戸惑い不安に思うことだろう。けれど。
「ただし、イルの行動に口出しはさせない」
それでもこれはきっと、必要なことなのだ。イルは仲間だと、アイギスにきっちりと認識させるために。
「ですが彼女は」
「守れないなら、今後一切アイギスをパーティメンバーに入れることはないから」
有無を言わせず次ぐ言葉。それは先程内心で考えていた最終手段。極力避けようと試みたそれをアイギス自身が招くなら仕方ない。その時は、迷いなく施行することにしてしまう。
きっぱりと伝えた梓董の言葉を受け、アイギスの天秤は梓董の傍にいることに傾いたらしい。ここにきてようやく首肯をしてみせた。
「了解しました。わたしの一番の大切はあなたの傍にいることであります。そのための妥協なら受け入れるであります」
……梓董が言うのも何ではあるが、何とも感情の起伏に乏しい存在だ。機械だからと言われてしまえばそれまでだが、どこまでをどういった風に理解しているのかわかりにくくて仕方がない。
まあ、だからこそ今はその言葉を額面通りに受け取り信じる他ないのだが。
来る満月の夜を思い、明日の大会の前に既にかなりの疲労感を感じた梓董は、ただただ深く溜息を吐くのだった。
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