夏休みは計画的に!



今日から始まる夏休み。学生特権で遊び呆けるもよし、学生の義務を果たすべく学業に精を出すもよし、少し早い社会体験も兼ねアルバイトをして過ごすもよし。自由な時間が始まるわけ、だが。

体育会系の部活には、青春の二文字が早々に用意されていた。










《07/26 夏休みは計画的に!》










そんなわけで、というのも変な話かもしれないが、とにかく。運動部に所属する者達はどうやら明日から強化練習が始動するらしい。

明王杯を控えた剣道部はもちろん、たまたま話を聞いたイルもまた自身の所属するテニス部で一週間の強化練習を行うとのこと。テニス部は明王杯の代わりに、最終日に他校へ合宿を兼ねて練習試合を行いに行くらしい。どの部も大抵が忙しいくなるということか。

とりあえず今日は、明日から始まる猛特訓の日々を送るための束の間の休息日といったところ。まあ、だからといって梓董が普段の生活を変えるわけはなく、彼は自室で普段の日曜通りに通信販売の番組をチェックすると、その足でそのままラウンジへと向かい、先日からこの寮で一時生活を共にすることとなった天田という少年と共に、これまた普段の日曜通りにフェザーマンの鑑賞をしていた。

天田は最初こそこちらを気にするようにちらちらと様子を窺ってきていたが、その内テレビに夢中になりのめり込むようにして真剣に画面を見つめだして……。その様子や彼の言葉遣いから察して、もしかしたら彼は子供扱いされたくないのかもしれないと、梓董はぼんやり判断する。背伸びをしたい年頃というやつだろうか。どうでもいいが。

やがて今週分のフェザーマンも終わりを迎え、来週の予告が流れ始めた頃。ソファに身を沈めテレビを見ていた梓董に、ふと声がかけられる。


「あれ。戒凪に天田くん。二人揃ってどうしたの?」


振り向けば、いつの間にそこにいたのか、玄関付近から首を傾げてこちらを見やるイルの姿が視界に映った。


「……テレビ観てた」


問いかけに答えれば、条件反射のようにラウンジに置かれたテレビの方へ視線を向けたイル。視線はそのままの彼女の足は、迷いなくこちらへと向かってくる。その歩は玄関側の長いソファ……天田が腰掛けている方のソファの後ろで止まり、その背もたれに彼女の両手が乗せられた。

そのまま天田へと降る、イルの笑み。


「へー。二人共、気が合うんだね」


既にフェザーマンは終わりを告げ、今の画面に映るのはありふれたコマーシャル。何を観ていたかはわからずの言葉だろうとは容易に知れる。

が、フェザーマンが好きだとバレてしまったと思ったのか、それとも単にイルの笑みに照れたのかはわからないが、みるみるうちに天田の顔が真っ赤に染まり。彼は慌てて立ち上がると、焦った様子を隠しきれないままに口早に言葉を紡ぎ出す。


「ぼ、僕、用があるんで出かけてきます!」
「へ? あ、うん、気を付けてね」


わたわたと忙しなく駆け去る少年の小さな後ろ姿を半ば茫然と見送ったイルは、その背が完全に玄関の扉の向こう側へと消えた後、ぽつりと呟いた。


「……何か気に障ることでも言ったかな、あたし」
「さあ」


小さく肩を竦めて短く返せば、イルは不思議そうに玄関の扉を見つめつつ梓董の正面のソファ……先程まで天田が腰掛けていた場所に腰掛ける。

梓董に用があったのだろうか。


「……なんか、こうして寮で落ち着いて話をするの、久しぶりな気がするね」


へらり。照れくさそうに、けれどどこか嬉しそうに、梓董へと向き直ったイルが笑う。確かにここ最近、学校ではいつも通りに言葉を交わしたりしていたが、寮の中でとなるとあまり落ち着いて話ができていなかったことは事実。というよりも、言葉を交わすこと自体困難だった。

もちろん、アイギスのせいで。

彼女が梓董にイルを近付けないよう行動していたのは屋久島にいた時だけのことではなく、こちらに戻ってからもそれはずっと続いていた。監視よろしく四六時中、それこそ隙あらば部屋まで潜り込んできての過剰なアイギスの態度に、正直梓董は疲弊に疲労を重ね、苛立ちすら覚えるほどで。今日もフェザーマンを観終えたらさっさと外出する予定だった。

アイギスはまだ、外出許可が降りていないから。だからこそ、外ならばまだ自由を得ることができるのだ。

わざわざそうせねばならないなど心底面倒なことだが、と、内心息を吐きながら、梓董はそれでも無表情のままイルに答えた。




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