癒し効果はバツグンです



「っはぁぁぁぁ〜。開放感〜」


ある意味恒例となっているカラオケ店で受け付けを済ませ、部屋に入るなり中央に設えられたテーブルの上に上体を突っ伏した白い友人に、とりあえず西脇からも岩崎からも苦笑がもれる。

白い友人ことイルは、つい先日まで彼女の住まう寮の寮生達と共に屋久島旅行に行っていた。それは彼女と同じ寮に住まうもう一人の友人……今ではもう友人だと言い切れるくらいには仲良くなれていると思っている、桐条美鶴もまた同じで。というよりもそれは桐条の招待に近かったらしく、他の寮生達のこともあるし今回は参加できなかった西脇達に、二人は色々なお土産を買ってきてくれた。それが土産話ともなると、二人共何故か揃って苦笑を浮かべて曖昧に濁していて。一概に楽しくなかったというわけではないようだが、あまり詳しくは話したくない様子だった。ちなみに、今日のこの集いに桐条の姿がない理由は、もちろん多忙だから、だ。会長であるからには生徒会の集まりを休むわけにもいかないだろう。

とにかく、その疲れもとりきれぬ内に夏休み前最大のイベントが追い討ちをかけてくれたのだ。イルの態度もその言葉も理解はできる。


「ほら、でもまあ順位は前回とそんなに変わらなかったし、良かったじゃん」


ぽん、と軽くイルの肩を叩き、微笑を浮かべながらそう告げたのは岩崎。順位、という言葉で予想はつくかもしれないが、今日は連休前に行われた試験の結果発表が行われた日。長期休み前ということもあり、ただでさえ夏休み前最大のイベントであるそれは、それと同時に補習授業のかかった重要なイベントだったりした。岩崎はともかく、イルや西脇にとっては特に。

だが前回同様皆で勉強会を開いたり、イル個人に絞るなら転校をしてきて早々から学年トップに君臨している梓董戒凪というこの上ない家庭教師を得られているのだ、成績が悪いわけがない。いや、悪くあってはいいはずがない。西脇や岩崎とて梓董直々の家庭教師は羨ましくて仕方ないのだ。教え方がそこらの教師よりもよほどうまいというのだから、余計に。

まあそれは半分冗談として。とにかくイルは大体前回と同じ程度の順位をキープできていて、だからこそプレッシャーからの開放感が一入なのだろう。そう思っての岩崎の言葉だったのだが、声をかけられたイルはきょとんと目を瞬いて彼女を仰いだ。


「……へ? えと、何の話?」


その言葉の方にこそ、西脇も岩崎も目を瞬くしかなかったのだった。










《07/24 癒し効果はバツグンです》










「あ、ああ、そっか、テストねテスト」


あはは、と渇いた笑みを浮かべ頭を掻くイルに、部屋に向かいながらいれてきたドリンクに口を付けつつ西脇が呆れた視線を向ける。岩崎はその隣で首を傾げていた。


「てか普通忘れる? 結構重要なイベントなのに」
「本当。試験終了直後の廃人みたいだったイルが嘘みたい。何かあった?」


廃人って……。

岩崎からのその例えが何気に的を射ている気がしてイルの頬が軽く引きつった。とはいえそこから続けられた言葉は明らかにイルを心配してくれてのものなので、それはすぐに困ったような苦笑に変わったのだが。


「うん、まあ、ちょっとね……」


告げながら含まれた溜息は明らかな疲労を宿しているのに、その内容は明確にはしてくれないらしい。まあ元より色々と謎の多い少女ではあるし、案外頑固なのか語りたくないことはとにかく語らない少女でもある。訊いても無駄だろう。

それを含めても、本人の明るさや時には妙にずれていたりするところ、何気なく色々気遣いをみせたりするところなど、その人柄に好感が持てるのでこうして友人でいられるのだが。もちろん全く気にならないと言えば嘘になるので話してくれるなら話して欲しいとは思う。力になりたいと願うことは当然だろう、友人として。


「何があったか知らないけど、いつだって話くらいは聞くからね」
「そうそう。イルは笑ってた方がいいって、絶対。というよりも、そうじゃなきゃこっちの調子が狂うしね」
「結子……理緒……ありがとう!」


二人共だいすき! などと、テーブルさえ挟んでいなければ抱き付いてきそうな勢いで声高に告げるイルに、こちらもテーブルさえ挟んでいなければその頭を撫でてやりたくなった西脇と岩崎。やはり二人共母性的で面倒見の良い少女達なのだ。

間にあるテーブルのお蔭でそれは実現には至らなかったが、とりあえずそれとは別にできることはある。というよりも、それこそが本来のこの場所の存在意義だろう。


「さ、じゃあ歌おっか。ストレス発散くらいにはなるでしょ?」
「う〜。あたしには二人が癒しだよ〜」
「はいはい。何歌う?」


早速選曲に入った岩崎に、イルは未だ感極まった様子で声を震わせ、それを西脇が軽く流して話を戻す。



こんな日常的な放課後だが、帰る際のイルにはいつもの笑みが戻っていて。そんな彼女と別れた後、西脇と岩崎は顔を見合わせ微笑し合った。

手のかかる妹をもったみたいだと、そう思いながら。









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