新たな



「……ところで、君は学校はどうした? 見たところ、私達とそう変わらない年頃に見えるが……」
「え? あー……」


迷う視線。
困ったように口を噤んだイルを見て、何か事情があるのだろうかと皆が思ったその時。イル自身が自ら口を開いた。


「えーと、行ってないです。一年しか」
「一年?」
「はい。高校一年の1月までは通っていたんですけど、ちょっと事情があって」
「……そうか」


ちょっとした事情、と言葉が濁された以上、やはりそこには触れてはいけない事情があるのだろう。

本人の口調は変わりないものだったが、それ以上はさすがに問えない。

そんな空気が流れる中、その重みを払拭しようとしたのか、伊織がいつもの明るい調子で口を開いた。


「あー、と。あ、じゃあイルは年はオレらと同じってことか」
「はあ? 何でそうなるわけ?」
「へ? だって1月までは一年生だったんだろ?」


イルは1月と口にしただけで、それがいつの1月かまでは告げていない。まだ自分自身が二年生に進級したばかりなせいか勝手に早とちりをする伊織に、岳羽が呆れ気味に突っ込む、が。
どうやらあながち勘違いでもないらしい。


「……えーと、うん、確かにあたし、十六年生きたよ」
「ほら合ってんじゃん」
「てか、生きたって何……。もしかして天然?」


イルの答えにしたり顔で笑う伊織と、やはり呆れ気味の岳羽。
溜息を吐く岳羽に続き、それならばと桐条が再び口を開く。


「なら、君も皆と共にこの学園に通えばいい。とりあえず当面は私の方で面倒を見るから、後のことは追々決めていけばいいだろう」
「え!?」


桐条の提案に驚いたのはその場にいるほぼ半数。
そこに渦中の人物であるイルも含まれていた。


「いや、でも……」
「形はどうあれ、君には力を借りることになったんだ。そのくらいはさせてもらうさ」


ふっ、と微笑む桐条はどこか満足そうで。
彼女にしてみれば、学業は大事なものなのだから積めることに越したことはないという考えがあり。深い事情は知らずとも、通学できる条件さえ整えてやれば、イルはまた勉学に勤しむことができると考えたのだろう。
力を借りることを条件とはしながらも、多分、厚意での申し出だろうと思う。
我ながらグッドアイディアだという思いが、彼女の表情に表れていた。


「え、ええっと、でもそんな、悪いですし……」
「遠慮はいらない。金銭面が気になるようなら、いずれ社会に出るようになった際にでも返してくれれば構わないさ」
「いや、そういう問題でもないんだけど……」


困ったなあ、と小さく首を左右に振るイルのことなどお構いなしに話は進み。桐条の提案を、理事長である幾月までもが賛同し後押しするものだから、退くに退けなくなる。

結局、半ば強引な気がしなくもないが、イルは仲間入りと共に月光館学園への転入も決まり。

今日はこれで解散となった。










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