さらば屋久島



なんだかんだで実に濃い内容だった屋久島での日々も今日で終わりを迎える。

最終日の今日、最後だからと頼み込む伊織に圧され、ほぼ強制的に全員が海で遊ぶことになった。










《07/22 さらば屋久島》










まあ初日もそうだったのだから当然と言えば当然か。今回もまた先に砂浜へと繰り出したのは男性陣の方。前回と違うことと言えば、女性陣を待つ間の水着談義が女性陣全員についてからイルとアイギスについてに限られたということくらいか。

とはいえ、イルはともかく、アイギスの水着はさすがによろしくないだろう。見た目は確かにひとに酷似しているが、その体の所々……特に関節部が物語っていた。彼女は、機械であると。

人型をした機械であると周囲に知れれば、彼女が驚きと困惑と好奇の視線に晒されることは目に見えている。それは皆としても望むものではないため、おそらく彼女は露出を少なくするためにも昨日着ていたワンピース辺りを着てくるのではないだろうか。

もう一方のイルに関しては海に自体来ないという選択肢もあると思うが……昨日のアイギスとの一件は未だもって解決していないらしく、朝からダメだダメだと言われた上に、必要以上に梓董から遠ざけられて疲弊気味だったのを見かけたし。だがもしもそれを押してここに来るようなら、今度は水着を着てくる可能性が高いはず。一昨日そんな内容の会話を交わしたことを思い出しながら、しかしそれを梓董が伊織に告げることはなかった。

言わなくても答えはその内わかることでもあるのだし。

似たようなフレーズをどこかで聞いたような気がしながらも待つこと少し。今度は全員一緒のタイミングでこの砂浜まで辿り着いたらしい女性陣の姿が見えてきた。


「あー。アイギスはやっぱあのワンピースかあ……」


予想できていただろうに、それでも落胆するのか、伊織。それ以前にあのワンピースすら身に纏っていないアイギスの姿を昨夜目にしたというのに、それでも水着を着て欲しかったのだろうか。
伊織の思考は理解できそうにない。

それでも伊織が落胆したのは一瞬で、次の瞬間には傍目にもわかるほどに彼の表情が思いきり輝いた。


「おお! なんだよイル〜。似合ってんじゃん、水着〜」


出し惜しみすんなよ、うへへ。
そう続けた伊織のその声共々しまりのない緩んだ眼差しが、女性陣の後方、桐条の傍らに立つ、白と茶を基調とした色合いの、腹部を晒さない露出が少なめの水着を纏ったイルへと向けられる。その変態的な伊織の反応に、先日同様岳羽が心底嫌悪と軽蔑を宿した冷たい視線を向け、その隣では山岸が困った様子で苦笑を浮かべた。

もちろん、それに全く屈しないのが伊織順平というこの男だったりするのだが。


「いやあ、やっぱ女の子はこうじゃなきゃ。ね、真田先輩!」
「あ、ああ……じゃなくて、何故俺にふる!?」


衝動的にか惰性的にか、突然話の矛先を向けられ流されかけた真田は、慌てた様子で我に返るとそのまま思い切り首を振った。その顔は面白いくらいに赤く染まり上がっている。どれだけ純真なのか、真田。

しかしそれを梓董が微笑ましく思うことはなく……イルが水着を着てくることはわかっていたことだというのに、何故だろう。伊織と真田の反応が僅かばかり気に障る。

他の女子より露出は控え目と言えど、水着は水着。普段はさほど目立たない上腕や、砂浜に伸びた素足は全く隠れてなどいないわけで。白い少女のイメージに違わずあまり焼けていない肌が、色素の薄い砂地によく映えていた。

確かに桐条ほどにスタイルはよくないかもしれないが、恥じるようなものでは全くない。ただそれを……あまり、伊織達の目に晒したくなかった。

これも独占欲、なのだろうか。

……馬鹿馬鹿しい。恋人でもなんでもないくせに。

そう思い苛立ちをかき消そうとするも、伊織の態度をさほど気にするでもなく普通に会話をするイルの姿を目にしてしまうと、どうしても消し去ることができなかった。

それでも少しでは気が軽くなるかと、とりあえず溜息を吐きだしてみるのとほぼ同時。おそらくこちらの心情を察したわけではないだろうが、ふとこちらへと視線を移してきたイルと目が合う。交わる視線に、どこか恥ずかしそうに彼女が笑った。


「変じゃ、なかったかな?」


ここにきて未だ気にしていたのか。

女子の水着姿の全てに感動する伊織ではやはりあてにならなかったのか、改めて梓董がそう問われる。何故梓董なのかといえば、おそらく一昨日の会話に起因しているのだろう。




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