対シャドウ兵器



「どうやら対シャドウ兵器が行方不明になったらしい」


桐条らが杉を見に行ってしばらく。幾月から入った連絡により告げられたそれが、今桐条が別荘に戻ってきた理由。対シャドウ兵器がどういったものか詳細は桐条にもわからないらしいが、兵器と名のつく存在だ。用心のため、武器を取りに来たらしい。

武器を持っていきながらイルの様子も見に行くという理由から、ここを訪れたのは桐条一人。他の二人は真田達に連絡を取りながら先んじてその兵器の捜索に取りかかっているらしい。効率を考えた結果、とのこと。


「ここにいたなら丁度良い。梓董、君は対シャドウ兵器の捜索に参加してくれ。できればイルの手も借りたいのだが……」
「あ、はい。わかりました。イヤな予感が、とか言ってる場合じゃないですもんね」


兵器とはいえ対シャドウ用なのだ、一般人に危害を加えることはないだろうが、目にされれば混乱を招かないとは言い切れない。早急な回収が要求されるだろう。人手はいくらでも欲しいところだ。

イルの快諾を耳にしながら、梓董としても断る理由などないため頷いて同意を示す。それから一度自分の部屋に戻り、とりあえず自分の武器と召喚器を手に取った。

こういう時、普段の戦闘方法が徒手空拳だと楽だと思う。目立ちもしないし。

ちなみに真田と伊織の装備は置いていくことにした。自分の身軽さを優先したという理由も無きにしも非ずだが、女性陣の装備は桐条の手により整えられているのだ、もし何かあったとしても何とかなるだろう、多分。

その形状から否応なしに目立ってしまう召喚器は、とりあえず傍目には目立たないよう腰に差して服で隠す。漫画のようだ、と遠く思うが、堂々持ち歩いて要らぬ通報でもされたら堪らない。

……桐条はどうやって運ぶつもりなのか。

彼女の性格上若干不安を覚えなくもないが、その辺はさすがに考慮しているだろう。……と、願いたい。

そんなことを考えながら部屋を後にした梓董を待っていたのは、イルただ一人。桐条はどうしたのかと思えば、問わずとも先行したとイルが教えてくれた。

梓董が思う以上に事態は切迫しているのかもしれない。

とりあえず木刀を手に急ごうと告げるイルに同意し、すぐさま桐条の後を追って駆け出した。向かう先は……。


「……ところでイル、どこへ向かえばいいか知ってる?」
「へ? …………あ」


屋久島と一言で言ってもその内部は広い。対シャドウ兵器がどんな容姿をしているかもわからなければ、どこに向かったかとてわからないのだ。

情報が少なすぎる。

闇雲に捜すしかないとしても、見つけようがないのではないか。

それに気付いてか困ったように頬を掻いたイルが、苦笑を浮かべながら小さく肩を竦めた。


「……とりあえず、桐条先輩追いかけてみようか?」


新しい情報があるかもしれないし、と。若干不安を覚える先行きに気付かないふりをして、とりあえずイルの提案通り桐条達がいるであろう杉林の方へと向かってみることにする。まあ携帯もあるのだ、どうとでもなるだろう。

木々が生い茂るそこに敷かれた舗道……いや、人工的な手の加え具合からすれば歩道の方が正しいか。ともかくそこを歩きながら、まずは桐条達との合流を目指す。

兵器のように思われるものも一応捜しながら歩くが、いくらなんでも戦車のような、いかにもといったものではあるまい。そんなものが行方不明になっていたら今頃この屋久島中が大騒ぎになっているだろうし、そもそもそんなに大きなものが行方不明になれるとはとても思えなかった。多分よほどの小型か、もしくは人の目をも欺けるような周囲に溶け入れる容貌をしているか。

まあ予想でしかないのだが。


「……にしても、対シャドウ兵器かあ……。もしかしたら、あたしのイヤな予感ってそれだったのかも」


溜息混じりに小さく呟かれたその言葉を聞き止め傍らを見やる。隣で歩くイルがその言葉を紡いだ当人だとはわかっているため、梓董は小さく頷いて同意した。


「……確かに面倒ではあるな」
「へ?」


行方不明になった対シャドウ兵器の捜索。それは梓董にしてみれば面倒事以外の何物でもない。てっきりイルもそれを面倒に思い、イヤな予感の矛先をそこに向けたのだと思ったのだが。

返ってきたのは間の抜けた、疑問符を付けた声。

思い違いだったのだろうかと思わず訝しむ。……そうでないならどこにイヤな予感を覚えるのか見当がつかなかった。




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