対シャドウ兵器



三人で縄文杉を見に行ってきます。

女性陣よりそう告げられた男性陣……というよりも、伊織が一人声を大にして嘆いたため、梓董はやはり呆れに溜息をもらすのだった。










《07/21 対シャドウ兵器》










伊織の怒りや嘆きはどうでもいいとして。山岸が残したとされるその話の内容が少しばかり気にかかる。

三人で、とは一体どういうことなのか。

ここにいない女性陣の人数は全員で四人。となると当然数が合っていないことになる。単純に考えて、誰かがその行楽に不参加だということだろうか。

そんな梓董の疑念に気付いたわけではないと思うが、問うまでもなくその答えはすぐに伊織が出してくれた。未だ、肩をこれでもかと思いきり落としたままに。


「……ああそうそう、なんかイルは体調悪くて部屋で休んでるとからしいから、邪魔すんなってさ」


無気力に告げる伊織に生気はなく、ただ不満そうに、海に来たのに何故海で遊ばないといった内容の言葉を絶えずぶつぶつと呟き出している。それはもう、この世の全てを嘆くかのような恨むかのような呪詛のように、だ。だがもちろん、その呟きの方が梓董にとってはどうでもいいこと。全く気にも止めない。


「……様子見に行ってくるんで、真田先輩、伊織をお願いします」
「あ、おい、梓董!」


傍にいた真田に一言だけそう言いおき、けれど答えを待つことはなく、梓董はさっさと歩き出す。

昨夜はいつもと変わりのない様子だったイル。それが今日になって唐突に具合が悪くなったとは一体どういうことなのか。潮風を浴びすぎて風邪でも引いたか、もしくは拾い食いでもしてしまったのかもしれない。
いやもちろん後者は冗談だが。

そんな少しばかりの心配と、それからあの状態の伊織と共にいることに嫌な予感を覚えたためあの場を離脱するためにも、イルの元へと向かうことに決めた梓董。伊織を押し付けてしまった真田には悪いことをしたとも思うが、何気に律儀なあの先輩はおそらく梓董に頼まれた通り伊織の面倒をみてくれることだろう。

まるで他人事のように適当に思考を巡らせ、それでも歩を進め続けた結果、やがて辿り着いたそこはもちろんイル達の部屋だった。半分名目上ではあるが、さすがに見舞いに水着で訪れるというのもおかしいだろうと、先に自分達にあてがわれた部屋で着替えを済ませてきた梓董は、目の前の扉を軽くノックする。少し間を開け小さく返事が返ってきたことを確認し、その扉を開けた。

部屋の造りは梓董達にあてがわれた部屋とあまり変わりないらしい。病人だからベッドにいるだろうと思考し、とりあえずそちらを目指してみる、が。

……何となく、イルに病人という言葉は似つかわしくないように思えた。


「……イル?」
「へ? え、戒凪!? な、何で!? どうしたの!?」


案の定ベッドにいた……わけではなく、窓辺に立っていたイルの姿を見つけ呼びかければ、振り返った彼女は驚いた様子で目を見開く。
どうした、は、こっちの台詞だ。

見たところ普段と特段変わった様子はなさそうに思えるが、本当に具合が悪いというならそんなところに立ってなどおらず、大人しくベッドに入っているべきだと思う。……まあおそらく、というよりも今の彼女の様子を見て、より現実味を帯びたにすぎないが、体調不良というのは誤りだと思われた。それが意図された嘘か、伊織の解釈違いかまではわからないが。

十中八九の確信を持ちながらも、それでもやはり全く体調不良ではないとは言い切れないため、梓董はイルとの距離を僅か詰めながら問いかけた。


「……具合は?」
「へ? 具合? 何の?」


きょとん。問われた意味や指し示すものが何かわからないと、イルの首が小さく傾げられる。演技ではなく本気で問いかけている様子に見えるのだから、体調不良は少なくとも彼女が言い出したことではなさそうだ。

……当人、なのに。


「体調がよくないって聞いたから」


とりあえず簡潔に説明をする。伊織から聞いた山岸の話を伝えればイルは数度瞬き、それからどことなく納得した様子で頭を掻いた。
ゆっくり口を開くその様は、どこか困ったような申し訳なさそうな雰囲気を纏っている。




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