青い空と青い海と青い春と



変態的に鼻の下を伸ばしまくる伊織を岳羽が苛立ちながらあしらっていると、ようやく残る二人も姿を現す。白いパレオ付きの水着を纏った美しい曲線美を披露する桐条と……。


「おおーっ、さっすが桐条先輩。お美しい……って、ちょ、おい、イル! おまえ何でこんなとこまでそのパーカー着てきてんだよっ!」


桐条の水着姿に見とれるのも束の間、彼女と共に現れたイルの姿を目に伊織は抗議に声を張り上げた。


「何でって言われても……。浜辺でパーカー着ちゃいけない決まりなんてないよね?」


きょとんと首を傾げる彼女は白い薄手の長袖のパーカーを着込んでいて。一応その下から覗くのは素足のようだから、パーカーの下に水着を着てきてはいるのだろうと思える。とはいえそれでは到底納得できないらしい伊織は全力でがっかりを体現していたが、梓董にしてみれば伊織のあの舐めるような視線をイルが浴びずに済んだことに安堵したところだ。
まあ、若干残念なような気もしないでもないが。

……いやいや、ちょっと待て。

何故梓董が安堵したり残念がったりしなければならない。

それは梓董が抱くべき感情ではないはずだ。

我に返り自分で自分の感情がコントロールできていないことに気付き、戸惑う。今までにそんなことはなかったし、第一他人のことでこんな感情を抱いたこと自体思い当たらない。

それなのに……。

顔には出さずとも内心で戸惑いを抱く梓董の肩を、そうとは気付かない伊織が突然引き寄せる。唐突な行動に、何なんだと体を引かれると同様に意識を思考から移せば、伊織は何やら会話に花を咲かせだした女性陣に背を向け、彼女らに聞こえぬようひそりと小声で問いかけてきた。

ちなみにいつの間にか真田も巻き込んでいたようだ。


「おい、おまえって、どのタイプがイチオシよ?」
「……は?」


突然何だと思わず眉根を寄せて問い返してしまう。意味がわからないとばかりの梓董の訝しみように、伊織はおいおいと呆れながらも若干楽しそうに続けた。


「水着に決まってんだろ〜。ま、イルは論外にしても、他の三人は見事にタイプバラバラだし、それぞれいい味出してるよなー」


何だこの万年頭の中が花畑男は。言いながら刻まれている笑みは何ともだらしなく、その発言と共に岳羽にでも知られたら鉄拳が飛んでくるのではないかとすら思える。

いや、ガルか。

とにかく一人で頭に花を咲かせているところ悪いが、梓董にはそれを相手にする気は更々なく。下らない、と一蹴した。


「何だよー。健全な男子高校生としてそりゃないだろ。あ、ちなみに真田先輩はどうッスか? やっぱ桐条先輩?」
「な、何でそうなるっ!?」


……やれやれ。相手にするだけ疲れてしまうと、梓董は溜息を一つ残してその場を離れることにする。伊織の気持ち自体を否定する気はさすがにないが、付き合っていられないというのが本音といったところだ。興味がないというよりも、正直どうでもいい。


「あれ、戒凪? 伊織くんとの話はもういいの?」


伊織と離れたことによって意図せずイル達の近くまで来ていたらしい。不思議そうに問いかけてきた彼女の方に目を向ければ、彼女もまた岳羽達との会話から外れてきたようだと窺えた。他の女性陣は彼女の後ろでまだ会話に花を咲かせているようだ。


「……イルこそ、いいのか?」
「へ? あ、うん。桐条先輩は皆の桐条先輩なんだよ!」
「……は?」


こちらも突然何を言い出すやら。意味がわからないと呆れる梓董に、イルは気にすることなくにこにこと笑みを絶やさない。

まあイルの意味不明さはさほど珍しいものでもないため放っておくが。

軽く流されたことも特に気にした様子のないイルは、唐突にふと思い出したと小さく声を上げた。今度は何かと視線を投げれば、彼女は目を瞬かせながら小首を軽く傾げて梓董に問う。


「ねえ、戒凪も残念だった? あたしがパーカー着てきたの」


……全く、次から次に、本当に何を言い出すのか。

まさかそんなことを直接訊かれるとは思っていなかったため僅かに面食らうが、そこはポーカーフェイスで名高い梓董。そんなことなど欠片も出さずに息を吐く。

……ちなみに、先程抱いた感情にもしっかり蓋をしておいた。


「……別に。伊織と一緒にするな」
「あはは、ごめんね」


何の気なしにただ訊いてみただけなのか、梓董の言葉に軽く笑って答えながら、イルは小さな呟きを口にする。一人ごちるように。


「……ちょっと、ね。結子達に悪いかなとも思ったんだ」
「悪い?」
「あたしの水着、結子や理緒、それに桐条先輩が選んでくれたんだよ」




[*前] [次#]
[目次]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -