新たな
「では、話してもらおうか」
寮の一室。
四階にある作戦室に皆……それこそ責任者でもある理事長、幾月すらも集まって。
取り囲むのは、パーカー姿の謎の少女、イルだった。
《4/27 新たな》
タルタロスの攻略後ということもあり、真田が不在であるという理由からも、イルへの質問は翌日にと回された。そのため同行を求められた彼女は特に嫌がる素振りもなく、あっさりと笑顔で頷いてくれ、今に至る。
「えーと。まずはあたしが何者か、でしたっけ? それはもう答えましたよ、あたしはイルっていいますって」
「そういうことを言っているんじゃない。君は一体どこの誰で、何故、何の目的であの場にいたのか訊いている」
「えー……それ、重要ですか?」
パーカーのフードをかぶったまま、どこか困ったように小首を傾げるイル。そんな彼女に重要だと桐条が返せば、イルはフード越しに頭を掻いた。
「んー……。とりあえず、目的は彼に会うこと、でした」
彼、と告げる彼女の視線の向く先は、迷うことなく梓董にあり。
追うように全員から視線を向けられた梓董は、心当たりがないと首を振る。
……知らない少女、のはずだ、彼女は。
「……梓董は君を知らないようだが?」
「あたしが彼を知っていることは、イコール彼もあたしを知っていることにはなりませんよ?」
さも当然とばかりにあっさり返すイルに、問いを続ける桐条の眉根が寄った。
ならば彼女は梓董を知っているのかと問えば、彼女は迷いなく肯定を返す。けれど、何故知っているかまでは答えるつもりがないようだ。
「だいじょうぶですよ。あたし、彼の不利益になるようなこと、するつもりないですし。だから、ここに置いてもらえません?」
「え!?」
聞いてないと、驚きの声が岳羽から。それに若干喜びを含めた声が伊織からもれる。
全面的に信じるには彼女は謎が多すぎるのだが。
「……まあ、ペルソナの素質もあるようだしね。戦力になってくれるんだったら願ってもないんじゃない?」
「理事長……」
素質の検査は、今日皆が学校に行っている間に行われていたらしい。まあそれがあったからと言って、元々影時間に平然と動いているような少女なのだ、何ら不思議ではないのだが。
桐条はイルと幾月を交互に見やり、それから小さく息を吐いた。
「……理事長が仰るなら……。ただし、信用できるか否かは追々判断させてもらうことにする」
「はい。よろしくお願いします」
口元に弧を描いて笑むその姿は、やはり邪気の欠片もなく。毒気を抜かれたような表情でもう一度溜息を吐く桐条。
そういうわけだから仲良くしてやってくれ、と言われ、各々思うところがあるかもしれないが……というよりも、岳羽がやや複雑そうだったが、とにかく皆了承を返した。
「とりあえず、自己紹介をしておく。梓董のことは知っているようだから大丈夫だろう。まず私は桐条美鶴。それから真田明彦、岳羽ゆかり、伊織順平だ。私と明彦は月光館学園の三年生、岳羽と伊織、それから梓董は二年生を勉める」
順に紹介し、そこで桐条はふと気付いた様子でイルに問う。
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