青い空と青い海と青い春と



はてさて。

やって来ました、屋久島へ。










《07/20 青い空と青い海と青い春と》










本日から予定通り開始された三泊四日の屋久島旅行。空は清々しいほどに青々と広がり、それよりなお深い色を湛えた広大な海が寮の皆を出迎える。

……が、それはあくまで自然の中の話のみで。

気分転換の名目なんてどこへやら、移動の船の中には終始重い空気が漂っていた。

伊織と山岸が何とかその空気を打破しようと奮闘したが、それも虚しく空回るに留まり。梓董にしてみれば別にどうでもいいことだったのであえて面倒に首を突っ込むことも口出しをすることもせず、我関せずを貫き通した。

……ちなみにこういった空気を気にもしないのは梓董だけに限ったことではなかったらしく、イルも顔色一つ変えることなく携帯をいじり続けていたようだ。どうでもいい裏事情だが、彼女の携帯の名義は桐条グループで請け負っているらしい。ないと不便だからと、寮にやって来てしばらく後に桐条が渡していたのをたまたま見かけたことを思い出す。

それはともかく。

錯綜する想いになど左右されず、船が動けば目的地には辿り着くもので。皆が世話になる桐条の別荘に荷物を一度置きに行った後、昼は気分転換の公言通り海で遊ぶことに決定された。

ある程度予想通りの別荘という名の豪邸では桐条の父親を見かけたが、彼の話は夜に聞くことになったらしい。

とりあえず準備が出来次第海岸に集合となったわけだが、準備というものには往々にして男よりも女の方が時間がかかるもので。当然の如く、先に海岸に出たのは男性陣の方だった。


「んー、この、ビーサンに、足の指の付け根が食い込む感じ……ようやく“夏”実感だぜ!」


浜辺に着くなり波打ち際まで駆け出し大いに伸びをし叫ぶ伊織は一面の青を既に存分に謳歌しているようで。普段ですらないやる気を暑さで更に持っていかれた梓董が鬱陶しそうにその様を遠巻きに眺める隣で、真田は着々と遊泳のための気力を高めている。

なんて元気なんだ、この二人。

若者として正しい姿であろう二人に、けれど梓董についてゆく気は更々なく、一人ぼんやり海に視線を馳せた。さすがにここで溜息を吐くのは空気を悪くしすぎるからと一応自重しておく。

とりあえずすることもないので伊織の傍まで向かい、女性陣が来るまでの間暇潰しに適当に会話をして時間を潰すことにした。まあ会話の内容は概ね伊織が女性陣の水着についての想像を巡らし一人で興奮するといったものだったので、ただ軽く流すだけだったが。

そうこうしている内に、さほど待つこともなく女性陣もやって来たらしい。いち早く気付いた伊織がそちらに向け嬉々と駆け出す。視線のみでそれを追えば、一番最初に到着したのはどうやら岳羽のようだった。


「おーっ、ゆかり選手、想像よりけっこう強気のデザインですな! やっぱ部活でシボれてるって自信が大胆さに繋がってるんでしょうか!?」


……選手って何だ、選手って。

岳羽が現れるなりその水着姿について実況口調ではしゃぎだす伊織。当然だが、岳羽は引いている。思いきり。


「パラソル……空いてるとこ、勝手に使っていいのかな?」


この微妙な温度差の中、次いで到着したのは山岸で。彼女は水色のスカートの付いた清楚な雰囲気の水着を纏い、辺りを見渡していた。

そう言えば確かに至る所にパラソルの姿は見えるが、それを使用している人影はない。海辺に他の人が全くいないというわけではもちろんないが、パラソルの下で場所取りをしている様子もまばらなのだから個人が用意したものではないということだろうか。

そんなことをぼんやり考える梓董のことなどお構いなしに、伊織の下手をすればセクハラと怒られても仕方のない実況は続く。


「おっとー、続いては風花選手ですなー。つーか……風花おまえ……メッチャ着痩せするタイプ……!?」
「え……ええっ?」
「んだよー、そんなハズかしがんなくても、いいじゃんかよぉー。ムフフ」
「ムフフって、変態かっつの!」


だからセクハラだと言うのに。

ここぞとばかりに食い入るように見つめてくる伊織の視線から逃れるように、慌てて岳羽の後ろに隠れる山岸。まあ当然の行動だろうと思えた。そんな彼女を庇う岳羽も、さすがに思い切り眉を顰める。もちろん嫌悪と侮蔑に、だ。

訴えられても知らないぞ、と梓董が思うことはなかったが、それでもここでは呆れ果てた末の溜息が抑えきれなかった。


「はー、やっぱ砂浜あっついですねー」
「ならそれを脱いだらどうだ」
「嫌ですって」




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