先を、知る



十年前に月光館学園周辺で起きた爆発事故。大勢が亡くなり、それと共に多くの生徒達が入院したとされる出来事を調べ上げ、それがシャドウと関係あるのではないかと問い詰めたのは岳羽。

その矛先が向けられたのは、当然のように桐条だった。

きつく問い詰められ、彼女は案ずるような真田からの視線を受けながら静かに……けれどしっかりとした口調で以て語りだす。自身の祖父が行った、忌まわしいその過去の実験を。

シャドウに宿る幾つもの不思議な能力、時間や空間にさえ干渉するといわれるそれを意図的にかつ人為的に利用できたなら。それが当初の目的だったのだと彼女の言葉は始まってゆく。

彼女の祖父はシャドウの力に魅せられ何か途方もないもの……それこそ漠然とし言葉すら得ないほどに規模の大きな何かを作ろうとしていた。そのために多くの研究者達を集い、人為的に大量にシャドウを捕らえ集めたその結果……。



……暴走事故が、起きてしまった。



それは実験の最終段階での出来事だったそうで。爆発事故と記録に残るその事故により制御を失ってしまったシャドウの力が、忌まわしい痕跡だけをただ深く暗くそこに残した。

それが、影時間とタルタロスなのだと桐条は呟く。

記録には、集められていたシャドウは分かれて飛び散り消失したとあるらしい。満月の時にやって来るのはどうやらその時のシャドウのようだと推測する。その事実を問い詰め、引き出し、聞き出したところで岳羽は桐条を強く糾弾した。

騙したのか、と。

無関係の自分達を使って、過去の後始末をさせようというのか、と。

憤りも露にきつく言葉を絞る岳羽に、桐条は理不尽だろうと戦うことができるのがペルソナ使いである以上、何よりも引き入れることを優先すべきと判断したのだと返す。同時に、黙っていたことは自身の意志であると、静かに謝罪を口にした。

それでも納得いかないと顔をしかめる岳羽に、横から桐条へ助け舟を出す形で口を開いたのは、学園の理事長であり今日は寮に顔を出していた、その口振りからして事情を全て理解しているようである幾月で。罪があるのは過去の大人達。償い、ではないが、彼らは皆当時の事故で命を落としているわけで、謂われのない後始末であるのは桐条自身も含めた皆同じことなのだと彼は言う。

いくら身内の不始末だとはいえど、それは桐条自身が起こした惨事ではない。……しかし、おそらくという推測だが、身内というだけで誹謗中傷なら数多く受け続けてきたことだろう。

先程岳羽から放たれた、あの言葉の刃のような。

とにかく。

知らされた事実とその中で齎(もたら)された朗報とを胸に、様々な想いを抱えつつも皆はそこで一度解散することになった。










《07/11 先を、知る》










解散した、とは言っても、そこは皆の生活空間を提供する寮の中。何をどう解散したかと言われれば、普段はラウンジにたむろう皆が各々に部屋なり外なりに向かったという程度。

どのみちここで生活している以上、寮から逃れられるわけではない。逃れたい、と、思っているか否かは別の話だが。

とにかく。幾月が持ち寄せた朗報も、先の事実が落とした重い空気を払拭しきるには至らず、結果その空気の中に好んで留まる者もなく、それぞれがそれぞれの想いを抱えながら席を立ち今に至ったわけだ。

その中で梓董だけは特に普段と何も変わることもなく。改めて何を思うでもなかったが、何とはなしに気付けば自然とイルと行動を共にすることになり、今一緒に作戦室で会話をするに至っていた。

……何故こうなったのかは、思い出せない。

多分、階段を上るタイミングがたまたま一緒で、何か世間話的なものをしたからその延長線、なのだとは思うのだが。

……そう思い返してふと思う。普段と何も変わらないのは何も梓董に限ったことではなかった、と。

作戦室のソファに腰かけ向かい合う白い少女もまた、特段普段と変わった様子も見せずに自販機で購入したジュースの缶を膝の上に乗せた両手で挟みいじっている。

……飲まないのだろうか。

まあ、どのタイミングで飲もうが本人の好きか、と、どうでもよさそうに適当に考えていた梓董に、ふと何か思い出した様子でイルが問いかけた。


「そういえば。戒凪は戦ってる理由とか、あるの?」




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