結局。
あの後他の部屋を見て回っても、九内家ではめぼしい情報を得ることはできなかった。
……茨羅も、あの家にはいないようだったし。
そうとわかれば、あの家にこれ以上いても仕方がない。
僕と深紅さんは今九内家を後にして、再び村中を歩いていた。
建物沿いに進んでいるとすぐに分かれ道に行き当たり、深紅さんとも相談してとりあえず左へと進んでみることにする。
そのまま少し歩いたその先に……。
「何、ですか……あれ……」
この村に不釣り合いな、歪な雰囲気を醸し出すそれが、高々と空へと伸びていた。
第六幕 「アオ」
「……やっぱり、塔、ですよね?」
上下に何度か照らし出したそれをそう判断し、だけど不可解だと深紅さんの声音が語る。
その気持ちは僕にも理解できた。
こんな山奥の小さな村に、この存在は酷く不自然に思える。
……目印にはなりそうだけど、いったい何のために存在するのだろう。
「これだけ大きな塔なら、麓からでも見えそうなものですが……」
近付くまでまったく気付かなかった。
この村についてからの理由なら、辺りに落ちたこの闇のせいということで理解できるけれど……。
「そうですね。村自体が闇に飲まれて現実からの隔離状態にある……と考えてもいいとは思いますけど」
……皆神村の、ように。
深紅さんの言葉を否定し一蹴するには、僕たちはこういう非現実的な出来事に慣れすぎてしまっていた。
だからこそ、その理由でも充分納得はいってしまう。
それは深紅さんも同じらしく、だからこそ彼女は言いながら複雑そうに眉根を寄せていた。
「……とりあえず、入ってみますか?」
「そうですね」
深紅さんの提案に頷いて、僕たちはその塔の入り口を探す。
塔の周囲にはぐるりと丈の長い柵が張られていて、そこを伝って歩いていくと、入り口らしきものが見えてきた。
「鍵がかかってますね」
「本当だ……。あ、ちょっと待って下さい。さっき九内家で手に入れた鍵を使ってみます」
深紅さんに答えて、仕舞っておいた鍵を取り出す。
九内家の中には使う場所がなくどこのものかもわからないそれが、もしかしたらここで使えるかもしれない、と思ったわけだけど……。
そう都合良くはいかないようだ。
「合わないみたいですね」
「……うーん。それじゃあここは後回しにして、別の場所に行ってみましょうか」
それしか道はないようなので、僕は深紅さんに同意を示して辺りを照らす。
そうしながら深紅さんと話し合い、とりあえず来た方向とは別の方へと行ってみることにした。
「あ。家がありますよ」
少し歩いたその先で、深紅さんがそう示す。
彼女が懐中電灯で照らし出した先には、確かに平屋の建物が建っていた。
塔の近くに建っているということは、もしかしたらあの塔に何か関係のある家、だろうか。
そう考えながら、とりあえず崩壊の少ない家に入ってみようとした僕たちだけど……。
「ん……あれ。開かない……」
どういうわけか、鍵がかかっているわけでもないようなのに、その家の戸が開くことはなく。
まるで見えない何かに押さえられているような気がして、念のため深紅さんが射影機を構えてみるけれど、彼女はすぐに射影機を下ろして首を振った。
どうやら何の反応もないらしい。
見た様子ではそうは思えないけど、かなり建て付けが悪いというだけかもしれないし。
どちらにせよ、入れないのならいつまでもここにいても仕方がないだろう。
とりあえず更に先に進んでみることにした。
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