踏み込んだ家の中はどことなく埃と黴臭く。

足を踏み出す度に舞う埃に、思わず口元を覆った。


「結構凄いね。埃」


私と同じように口元に手をやりながら、澪ちゃんが呟く。

私は彼女へと振り向いて、小さく頷いた。


「そう、だね。ゆっくり行こう、澪ちゃん」
「うん」


懐中電灯で先を照らしながらゆっくりと進む。



……何だか酷く、視線を感じるような気がした。













第五幕 「視線」













踏みしめる度に悲鳴を上げる木板の敷かれた廊下を歩きながら、私は背後へと振り向く。

じっと見つめるその先には、ただ深い闇だけが落ちていた。


「……茨羅ちゃん、どうかしたの?」
「え? あ、ごめんね。何でもない」


不安そうに尋ねてくる澪ちゃんに慌てて首を振って答え、安心させようと話を逸らす。


「造りが脆くなっているみたい……。床が抜けないよう、気を付けて歩かないと」
「そうだね。この音とか軋み方とか、ちょっと怖いし」


うん……歩いている限りは平気そうだけど、走ったりしたら怪しい気がする。

ここまで酷い状態ということは、たぶん元々あまりいい造りをしていなかったんじゃないかなと思う。

余計なお世話、だろうけど。

とりあえず、見かけた部屋を片端から見て回ることにした。

平屋の、そんなに大きな家には見えなかった家だし、調べきるにはそんなに時間もかからないと思う。

というのが私と澪ちゃんの考えだったけど、どうやら本当にその通りだったようで、残る部屋はあとひとつになった。

襖で仕切られたその戸をゆっくりと開けると、そこに広がっていたのは他の部屋よりも少し広めに感じる部屋で。


「この家の主……とかが使っていたのかな?」


呟く澪ちゃんに同感だと答えながら一緒に中に踏み入る。

広いけれど、ここにも特にこれといって目を引くものはないかな……。

そう考えながらゆっくりと辺りを見渡していくと、部屋の隅に備え付けられた文机が視界に入った。

その文机を懐中電灯で照らし出す。

すると机の端に、並んで立てかけられた数冊の冊子があることに気が付いた。

……何かの資料、かな。

他の物同様に傷みが見受けられる表紙とは違い、中は予想よりも痛んでいないみたい。

とは言っても、古い紙独特のぺりぺりとした感触はあるけれど……。


「これ……日誌?」
「日誌って、この家のひとの?」
「たぶん」


私がその冊子を手に取ったことに気付いた澪ちゃんが、問いながら傍まで来た。

私は彼女に頷いて返しながら、その日誌に書かれていた内容を読み上げる。

そこに書かれていたのは、この村の主な家のこと。

それによると、この村を治めるのは巴多という家らしい。

この家は紫苑(しおん)というひとの家のようで、この家のひとは何だか凄く巴多の家に尽くしているように感じられた。







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