「こ……ここまで来れば大丈夫……だよね?」
荒く息を吐きながら、澪ちゃんは掴んでいた私の手を離した。
私は彼女に頷きながらゆっくりと息を整え、辺りを見渡す。
「……え? いつ、き……?」
第三幕 「別行動」
どうしよう……樹月と深紅さんとはぐれてしまったみたい……。
二人の姿が見当たらないことに戸惑う私の隣で、澪ちゃんが視線を落とした。
「ご、ごめんね。私、夢中で……」
「そんな……謝らないで、澪ちゃん。私、澪ちゃんに助けてもらったんだから」
あの女性の霊、何だか強い気配を感じた気がする。
あれはそう……まるで、零華さんと対峙した時のような……。
たぶん、触れられるだけで危険だったと思う。
だから。
「ありがとう、澪ちゃん」
微笑みながらお礼を言えば、澪ちゃんも安心した様子で微笑んでくれた。
「……でも、どうやって樹月君と深紅さんを捜そう」
澪ちゃんのその言葉に、私も悩む。
捜すと言っても、村の構造もわからないからどこへ行くべきかもわからない。
どうしようかと二人で一緒に悩むけど、とりあえず……。
「灯り、つけようか」
「そうだね」
兄はたぶん、この村を覆うこの闇のことを知っていたんだと思う。
だからこそ兄は、私たち全員に灯りになるものを持っていくよう指示をしたんだろう。
私はその他に兄に貰った射影機を、澪ちゃんも皆神村で拾った射影機を持ってきている。
澪ちゃんの持つ射影機は、少し前まで壊れていたはずだったんだけど、この村に来ることになった途端に直って……。
まるで、自分が役立つ時をわかっているかのように思えた。
それを証明するように……。
「茨羅ちゃん、危ないっ!」
私のすぐ傍に突然現れた村人らしき怨霊を、澪ちゃんが射影機で撃退してくれる。
怨霊は苦鳴を上げながらゆっくりと消えていった。
「ごめんね、ありがとう」
怨霊の気配が消えてから、私は澪ちゃんにお礼を言う。
そんな私に、澪ちゃんは柔らかく笑いかけてくれた。
私は彼女に笑みを返してから、僅かに俯き呟く。
「……やっぱり、この村も皆神村と同じで……」
怨霊が巣くっている。
わかってはいたことだけど、実際にこうして視てみるとやっぱり現実感が違う。
そう心の中で思いながら、私は小さく首を振り、澪ちゃんに視線を戻した。
「えっと、戻る道もわからないし……進んでみてもいいかな?」
「うん」
澪ちゃんの了承を得て、とりあえず私たちは先へと進む。
……と言っても村の構造がわからない以上、こっちが進むことになるのかはわからないけど。
とにかく二人で一緒に足を進めていると。
「……何、これ? 塔……?」
ふと足を止めて澪ちゃんが呟く。
彼女の持つ懐中電灯が、その視線の先に建つ細長い建物を上から下へと照らし出した。
……木造のように見えるけど、確かにちょっと高い……かな。
村の中にあると考えると違和感があるけど、目印にはなりそう。
そう思って近付こうとしたけれど……。
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