……どうして。
こんなに大所帯になったんだろう……。
第二幕 「水治村」
兄が、私たちがお世話になっているひとたちに水治村へ向かうことを伝えに行ったら。
澪ちゃんと深紅さんも来てくれることになったらしい。
……樹月も、ついて来てくれると言っていて。
凄く凄く嬉しいけど、でも……。
私は、みんなを巻き込みたくない。
これは私の問題だから。
だから本当は兄だって巻き込みたくないのに……。
そう考える私に、みんなは笑って言ってくれた。
――みんなでまた帰ってくるから大丈夫、と。
みんなで、帰ってくる……。
その言葉が凄く嬉しくて、胸が熱くなるけれど……。
その一方で、私は理由のわからない不安と……罪悪感のような感情を抱いていた。
水治村のことは兄も調べていたらしい。
兄の友人である真冬さんや優雨さん、それに螢さんと深紅さんもその手伝いをしてくれていたらしく。
私が調べていたよりも多くのことを知っていたみたい。
その中には兄がもともと知っていた知識も含まれているようだけど、兄がそれを私に深く教えてくれることはなかった。
兄の言葉は決まって、早めに帰ろう、だったから。
……私を、この村に深く関わらせたくないのだと思う。
でも、私は……。
「ここが水治村だ」
兄の言葉に、はっとする。
気付けば、いつの間にか目の前に廃れた家屋が建ち並んでいた。
随分長いこと山道を登ってきたと思い返せば、少し疲れを覚える。
でもここからが本番だから、そんなこと言ってはいられない。
気を引き締め直して、私は持ってきていた射影機をしっかりと抱え直した。
その時。
「……悪いが、俺には行くところがある。すぐ合流するから、お前らは全員で行動していてくれ」
……え?
突然どうしたの、兄さん……。
「弥生、何かあるんですか?」
私の抱いた疑問を深紅さんが言葉にしてくれて。
その問いに兄は僅かに視線を落とす。
「……帰り道、調べとく」
帰り道って……来た道からは帰れないのかな。
疑問に思い、私はちらりと後ろを振り向く。
するとそこでは……。
来た時に通ったはずの小道が、長く伸びた草によって完全に消されてしまっていた。
「あの時と……同じ……」
ぽつりと呟いた澪ちゃんの言うあの時とは、きっと皆神村でのこと。
あの村でも、一度入ってしまったら出られないよう道を消されてしまった。
たぶん、この草の中を戻ろうとしても、またこの場所に辿り着いてしまうんだろう。
だからこそ兄は帰り道……おそらく、皆神村でいうあの神社にあったような抜け道を探そうとしているのだと思う。
そう納得した私は、静かに兄を見上げた。
「……兄さん、無茶はしないでね」
「当然だろ。可愛い妹を残して危ない真似はしねえさ」
私を安心させるように笑い、頭を撫でてくれる兄の温もりに安堵する。
そんな私にもう一度笑いかけてから手を離した兄は、真剣な眼差しを深紅さんに向けた。
「深紅、茨羅を頼む」
「……はい」
「主に樹月から守ってくれ」
…………何で?
訳がわからないと首を傾げる私と、私と同じように首を傾げる澪ちゃん。
深紅さんと樹月に至っては、呆れているのか疲れたような表情を浮かべて溜息を吐いていた。
「じゃ、よろしくな。……気を付けろよ」
「弥生も」
深紅さんと頷き合い、兄は一足先にひとりで村の中へと消えていく。
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