「駄目です! そんな……その刀、今は能力が安定していないんでしょう!?」


制止する声も聞かずに刀を取る。

柄を握り、感じる感覚は慣れたもの。


「悪いな、深紅。それでも今、行かねえとならないんだ」


早く、早く早く。

形振り構っている暇なんかない。

早く……っ!


「っ弥生っ!」


深紅が悲痛な声を上げ名を呼んでくるが。

俺が、留まることはなかった。










――幕引き――










青。

視界に広がるそこは、かつては村だったはずの廃れた廃墟群。

ひとひとり存在している気配もなく静まり返ったそこは、かつて水治村と呼ばれていた場所。

……つい今し方まで怨霊たちが犇(ヒシ)めきあい、跋扈(バッコ)していたはずの場所でもある。

それなのに。

辺りに漂う埃っぽささえ抜きにすれば、今この村は清浄な空気に満ち満ちていた。

本当に、ただの廃村でしかなくっていたのだ。

その事実に打ちのめされる俺の内心を嘲笑うかのように嫌味なほどの綺麗な青が空には広がっていた。

時間を越えようとはしなかったというのに、何故。

まるで何かの意志に拒絶されているかのような気さえして、けれどそれを認めたくはなかったから……縋るような想いで、村の中を奥へ奥へと歩んでゆく。

そうして辿り着いたそこでは、大きな門が俺を出迎える……はずだった。

それなのに。

村内の他の建物にも類を見ないほどに跡形もなく、原型とて欠片も残さずに崩れ去った瓦礫の山。

それが今、俺の目の前に広がっている。



くらり。



目の前が暗く沈み歪んでゆく感覚。

方向感覚を失い、思わず膝から崩れ落ちていたことに、自分ですら気が付かなかった。

目の前は真っ暗だというのに、頭の中は真っ白に塗り潰され、何をどう考えればいいかすらもわからない。



……瓦礫は、かつて巴多と呼ばれたこの村の統治者の屋敷のなれの果てだった。



その家のことなんかは俺にとってどうでもいいことで。

むしろ跡形もなくなってくれて清々したくらいなのだが。

そんな家のことなんかじゃなくて、問題なのは……。



――埋まって、しまったこと。



そう、埋まってしまった。

あの場所が……あの場所に向かっただろう、俺の大事な、何よりも大切な唯一の存在が……。




「……っ茨羅」




茨羅……茨羅、茨羅っ!




「……うっ……」




俺の、ただひとりの妹。



誰よりも大切な、たいせつな、いもうと。




「……っぁ、ぁ……ぅ、ああぁあああぁぁぁあああぁあっっっ!!」




記憶にある内では初めて叫ぶ慟哭。

どこに向ければいいかもわからない、複雑に絡み合いもつれ合う多くの感情を何ひとつ明瞭にすることもできずにただ吐き出すことしかできない俺を。





苦しいほどにどこまでも広く深い青が、物言わず見下ろしていた。















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