やっと気付いた。
わかったの。
……それが私の。
――うまれてきた、いみ。
終幕 「さあ、終わらせましょう」
蔵の中はさほど広くはなく、特別目を引く何かがあるわけでもなかった。
しいて言うなら、まだ村が村として機能していた頃の名残だろう、何かの荷物が箱に収められて端に置かれているくらい。
その内部の丁度中間付近が鉄格子で分断されていて、その一部分、扉となっているところにかけられた錠前を、兄が持っていた鍵で開け、更に奥へと進む。
奥にはまたも扉があり、そこもしっかりと鍵がかけられていた。
その鍵もすぐに兄が開けようとしたけど……。
「待って、兄さん」
開ける前に、制止する。
訝しそうに私へと振り向いた兄へと近付き、私は鍵を持つ兄の手をそっと握った。
「……私にも、やらせて」
決別のために。
そう思ってもらうため、私はできる限りの強い光を瞳に込めて兄を見上げる。
村との決別なら私にも……ううん、私にこそ、つける権利があるはず。
だからだと思う、兄は静かに私へと鍵を渡してくれた。
「ありがとう、兄さん」
そして、ごめんなさい。
あとの言葉は胸の内だけで呟いて、私は扉の鍵を開ける。
小さな金属音を立てて解錠を告げた扉を押し開き、その先の闇を照らした。
懐中電灯の丸い光に照らされるそこは細く長く続く、下り階段になっていて。
そこにまずは私が入り、扉の傍、壁側に立ち他のみんなを促す。
それに応えるように澪ちゃんも深紅さんも樹月も……兄も、この通路へと踏み入ってきて。
兄が扉をくぐったと同時に、私はそっと、兄を仰いだ。
暗くてもわかる兄の顔は、妹の私から見ても綺麗だって素直に思えるほどに整っていて。
ずっとずっと、私を真っ直ぐに見つめて見守ってきてくれたその黒い瞳と視線が交わると、私の瞳の方が揺らいでしまう。
それを隠すように私はそっと視線を落とすと、静かに兄の手を取り握った。
大きくて暖かいこの手は、いつもいつでも私を守り、育ててくれたもの。
感謝しても、したりない、本当に。
「兄さん……」
「ん?」
――だいすき。
音にしないで呟き、私は素早く兄から手を離すと扉に手をかけ……。
引いた。
「茨羅!?」
出る時に押して開いた扉を、閉めるために引くということ。
それはもちろん……蔵の中側からでなければできないこと。
閉めた扉を再び開かれてしまう前、兄たちが戸惑っているだろう今の内に、すぐに鍵をかけ直して開かないようにする。
直後に向こう側から強く扉を叩かれ、扉についていた私の手に痺れるような振動が伝った。
「茨羅! 何してる!? ここを開けろ! 開けるんだ、茨羅!」
必死に叫ぶ、兄の声。
ごめんね、ごめん……ごめんなさい。
謝っても謝っても赦されないことをしているって、わかっているの。
わかっているけど、でも。
これは、わたしがやらないといけないことだから。
泣く権利なんて私にはないとわかっているから涙を耐えて目を閉じる。
そしてそのまま、この扉を開けるよう声を荒げてずっと私に呼びかけている兄の言葉に重ねるようにして、告げた。
「……私の我儘に付き合ってくれて、みんな、本当にありがとう」
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