これで本当に……。
……いいの?
第十七幕 「決意、決断、選択」
眠りの家の夢の中。
そこで視たひとりの霊が私に言い放ったあの言葉が始まりだった。
私のせいで、この村は滅びたのだとその霊は言う。
何のことだかわからなくて、でも知らないといけないことのような気がして。
私は夢中で、必死に資料を探して漁り回った。
そこで見つけた水治村の記述は全く記憶にないものだったけれど……行かなければ、と、誰かが強く私を急かすような感覚が体中を駆け巡り。
何のために行かなくてはならないのかもわからないのに、とにかくこの村に来なければならないと強く思ったことを、今も鮮明に覚えている。
最初はとにかく村のことを知るために行動して。
でも知っていく内に、私の中から別の思いが生まれてきた。
――これじゃない。
わたしがこの村に来たかった理由、来なければならなかった理由は、このためじゃない。
父に会えたことは嬉しかったけど、それもわたしを納得させる理由にはならなくて。
たぶんそれは、母に会えたとしても同じことなんだろうと思う。
わたしがこの村に来た、その理由は……意味は。
「……茨羅?」
ふと声をかけられ、それでようやく自分が思考に耽っていたことに気付く。
我に返って慌てて声のした方向、隣を歩く樹月を仰げば、彼は心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「具合でも悪い? さっきからずっと黙り込んでいるけど……」
「あ、ごめんなさい。大丈夫」
心配をかけてしまったことが申し訳なくて、すぐに笑みを浮かべて首を振る。
樹月も微笑を返してくれながら、そう、と紡いでくれたけど、それでもまだ心配そうなままだった。
私、ずっとずっと樹月に心配かけ続けている。
この村のことだけじゃなくて、ずっと。
ごめんね、樹月。
大丈夫だよ。
私は、だいじょうぶ。
――ギシキ……ギシキヲ、セネバ……。
蔵のすぐ近くまで辿り着いた私たちを、まるで蔵へは入れさせないとばかりにその入り口の前に現れた二人の怨霊が出迎えた。
唐突に現れた怨霊たちのひとりは、私にも見覚えがある。
紫苑家で私と澪ちゃんを襲ってきた、あの男のひとだ。
「ちっ。しつけえな」
忌々しそうに舌打ち、刀を構える兄。
その隣で同じように刀を構えた父の後ろ姿が、兄の姿とすごく自然に並んでいるように見えて。
場違いだとはわかっているけど、やっぱり親子なんだよねって思えてひどく嬉しくなった。
――ギシキ……ミコ、ギシキ……。
二人の怨霊の虚ろな窪んだ目は、確かに私を捉えていて。
自我がなくてもわかるのかと思うと、何とも言いようのない感情が浮かんでくる。
それは恐怖じゃなくて、どちらかといえば……哀れみ、かもしれない。
何に対しての哀れみかはわからないけど、でも何だろう。
……何かが、違うの。
でもいったい、何が……?
自分でもわからない感覚、感情に戸惑っている内に、あの二人の怨霊は兄と父に倒されていた。
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