よし、出口を開く鍵も三つ全部揃ったことだし。

さっさと帰るか。










第十六幕 「親子」










巫女に会わないことを願いながら足早に向かう先は、もちろん茨羅の待つ御導家。

茨羅が先に父に会っているはずだから、もう正面から入っても大丈夫だろう。



…………。



あの穴、見つかっちまったよな、やっぱり。

まあ、事情が事情だし怒られはしないだろうが、それでも家を壊されていい気分がするはずもねえだろうし。

謝らねえとな。

……不謹慎かもしれないが、謝れるってことが少し嬉しくもある。

そんなことを考えながら、特に巫女に襲われることもなく辿り着けた俺たちの生家。

巫女じゃない怨霊共は大した敵でもなく俺と深紅の霊力でまったく問題なくねじ伏せてきたわけだ。

と、そんなことはどうでもいいとして。

正面から堂々と御導家に入り込んだ俺たちを、父が出迎えることもなく。

初めて入る澪ちゃんはともかく、深紅はどこか安堵した様子だった。

……まあ、気持ちはわかるな。

茨羅たちは母たちの部屋にいるだろうから、とりあえずさっさとそっちに向かって。

一応周囲に巫女の気配がないことを確認してから中に入る。


「茨羅!」
「あ、兄さん、みんな……」


部屋の中に見つけた影は三つ。

その中の大事な大事な妹へとすぐさま駆け寄り強く抱きしめた。


「無事か? 樹月に何もされなかったか?」
「だ、大丈夫だよ、兄さん。私より兄さんたちは? 怪我とかしてない?」
「大丈夫ですよ」


俺の腕の中で心配そうな声を上げる茨羅に、俺に代わって深紅が答える。

その答えを受け安堵したのか、茨羅の体から少しばかり力が抜けた。

うんうん、やっぱ茨羅は優しいなー……って。


「ちょ、おい深紅っ、いきなり引っ張、る、な……」


て、あれ?

こういう時、茨羅から俺を引き剥がすのっていつも深紅だったはずなんだが……。



深紅、普通に隣にいるな。



……じゃあ、この手は?




「弥生、茨羅を想ってくれることは嬉しいが、樹月君を貶める物言いには感心せぬな」




…………。

げ、まさかこれって……。


「親父!?」


手が離された瞬間にすぐさま振り返れば、そこには幼い頃の記憶そのままの姿をした父が立っていて。

怨霊化していた時はわかりにくかったが、こうして見ると本当に俺、父にそっくりなんだな。

父は俺の言葉に一瞬きょとんと目を瞬いて、それから嬉しそうにその目を細めた。

……うーん、反応とか表情の雰囲気とかは茨羅の方が似てるな、やっぱり。


「親父、か。そう呼ばれることも嬉しいものだ。大きくなったな、弥生」


……親父。

くしゃりと俺の頭を撫でてくる父の手が、記憶の中のものよりも小さくて。

目線の高さも大して変わらなくなっていた。

そのことが俺に過ぎた年月の長さを思い知らせる。

感傷に浸るなんて柄じゃねえから泣いたりはしねえけどな。

それでもうまく言葉を紡げずにいると、俺の頭に乗せられた父の手がそのまま俺の頭を鷲掴み。

その手に、唐突に力が込められた。


「いだだだだっ!?」
「私の感傷はともかく、弥生、樹月君に謝りなさい」


く、さすがは父だな……握力、強すぎだろ。








[*前] [次#]
[目次]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -