しかしどれほど巫女の命を捧げようとも障気はまったく止まらず。
日記の最後はただ一文。
――御導の呪いだ、と。
そう書かれ、締め括られていた。
続きがないということは、この後障気に飲み込まれて村は滅んだのだろう。
散々御導にばかり苦渋を飲ませてきた罰が当たった、といったところか。
無様だし、当然の報いだとも思えるそれに、その気持ちに反して何だか虚しさも覚える。
こんな馬鹿げた結末のために、母や父は死んだのか。
今までの御導家の女性たちは殺されてきたのか。
……平凡な幸せすらも、奪われてきたのか。
「……ふざけるなよ」
滅ぶなら、勝手に自分たちだけで滅んでおけば良かっただろ。
放り捨てたその
日記に、躊躇うことなく刀を突き立てる。
だがそれで気が軽くなるなんてことは微塵もなかった。
「……あれ? 弥生?」
ふと。
しばし日記に突き立つ刀の刃をぼんやりと眺めていた俺に声がかけられ、僅かばかり緩慢な動作で振り返る。
見れば俺が入ってきた扉と同じ扉から、深紅と澪ちゃんが揃って入ってくるところだった。
「弥生がここにいるということは、とりあえずここまでの部屋は全部見て回った、ってことですか」
告げながら合流しようと近付いてくる二人を未だにぼんやりと眺めながら、集中しきれない頭で鍵を探していたことを思い返す。
……まあこの部屋が二階の最奥になるから、深紅の言葉は当たっている。
「私たちは鍵を見つけられなかったんですが、弥生の方は……って、弥生? どうしたんですか?」
問おうとしたことを切り替えて、訝しそうに……心配そうに深紅が俺を仰いできた。
その視線を受けようやくはっきりと我に返った俺は、すぐさま取り繕うように首を振り刀をしまう。
「いや、鍵ならさっき手に入れた。面倒だが戻るぞ」
「……そうですね」
俺の言葉に何か言いたそうに眉根を寄せつつも、結局何も問わずに深紅は頷いてくれた。
その気遣いに内心で感謝して、俺達は元来た道を戻ることにする。
一度だけ……深紅が俺の刀が突き刺さっていた場所を振り返っていたことに気付いてはいても気付かなかったふりをして。
で、当主の部屋まで戻ってきたわけだが。
予想通りというか、まあ当然の如くあの鍵はやはりこの部屋の鍵だったらしい。
中はそれなりに広くとも、どこにいようと互いに目は届く。
手分けして蔵の鍵を探す中、深紅と澪ちゃんはそれぞれ目についた冊子に目を通してみたりしていた。
俺は既に調べきっているが、二人は初めて入る部屋だし、何といっても村で一番の有力者、
巴多家の当主の部屋だからな。
知るにはもってこい、だろう。
かく言う俺もこの村についての情報の多くはここで得たわけだし。
とにかく、調べるのはいいが、鍵探しをおざなりにするわけにはいかない。
それは二人もわかっているようで、気になる冊子を見つけても読み耽ってばかりいるわけではなかった。
「あ、弥生さん、深紅さん、これじゃないですか?」
そう言いながらひとつの鍵を翳して見せたのは、部屋の隅に置かれた鏡台を調べていた澪ちゃん。
……どうでもいいことだが、たぶんこの部屋、夫婦で使ってたんだろうな。
いや、自分で考えておいて何だが、心底どうでもいいことだった。
そんなどうでもいいことは置いておいて、俺と深紅は澪ちゃんの傍まで移動する。
「……あれ、何だろう……。メモも一緒に入ってる」
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