書かれていた内容に目を通す間無言だった俺に、心配そうな深紅の声がかかる。

……何だかやたらと深紅に心配をかけちまってる気がするな。

そんなに心配されるようなことは何もねえんだが、たぶん、俺のことに少しばかり過敏になっているんだと思う。

……真冬のことが、あるから。

表面上は普通にしていても、傷を抱えていることには変わりないわけで。

ふとした拍子に不安になるのかもしれない。

帰ったら礼も兼ねて何かしてやらねえと。

樹月はともかく、澪ちゃんにもな。

そう考えながら、父の遺したその紙を服の物入れへと押し込む。

その紙に書かれていたのは、この鍵が巴多の家の鍵だということと。



――俺たちへ宛てた、言葉。



主に俺へと感謝するような言葉が並べられたそれに、深紅や澪ちゃんがいなかったらうっかり泣いてしまっていたかもしれない。

いい年した男が格好悪いよな、本当。

それを隠すわけでもないが、とにかく先を急がねえと。

ここで感傷に浸っている時間はない。

だいたい、家に行けばちゃんと父と話すことができるだろうしな。

……茨羅がいる、今なら。

まあ、だからといって長々再会を楽しむ時間があるわけでもねえが。


「よし。じゃあ行くか、巴多に」


とにかく今はやるべきことをしてこねえと。

みんなで、帰るために。

俺の言葉に頷く深紅と澪ちゃんを連れて、俺たちは諸悪の根源、巴多の屋敷を目指した。










第十三幕・了



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