塔の内部は主に空洞になっていて、壁に沿うように上部へ向かい階段が延々と伸びている。
これを上るのは骨が折れそうだが、茨羅のためと考えればまったく苦にならない。
ただ女性二人には辛いだろうと思い、ここで待っているか問いかければ。
「いえ。行かせて下さい!」
「私も行きます」
……何て言うか。
澪ちゃんも深紅も強いな、本当に。
もちろん俺と樹月は言うまでもないから、変わらず全員で移動ということで決定みたいだな。
さて、そうと決まれば上るか。
……と、意気込んだ矢先。
――ギシキ……ギシキヲ……。
ちっ、まだ出るのか、鬱陶しいな。
どいつもこいつも儀式儀式って本当うるせえ。
塔の中、それもこれから上ろうっていう階段の上からゆらりゆらりと体を揺らしながらゆっくりと下りてきたのは、神主姿の男の霊。
どうやらこいつも澪ちゃんには見覚えがあるらしく、あ、と小さく声を上げていた。
とにかく、邪魔だし叩き斬るか。
そう思い刀の柄に手をかけた途端、そいつはすうっと宙に溶けるように消えていった。
……何だ、まだ何もしてねえぞ。
てっきり襲いかかってくるもんだと思っていたから、思わず拍子抜けしちまう。
それは俺に限ったことじゃなくて、その場の全員が怪訝そうな表情を浮かべていた。
「……あ」
ふと。
いち早く何かに気付いたらしい樹月が、あの霊の消えた場所まで階段を駆ける。
そこで僅かに上体を倒し何かを拾った様子の樹月は、それをこちらへと軽く掲げて見せた。
「鍵、か?」
続くように俺たちも階段を上り始め、近くまで辿り着いたところで樹月の手の内にあるそれを認識する。
樹月が拾ったのは、小さな鍵だったようだ。
……何か本当、鍵ばかり落ちているな。
どこの鍵だろうかと思案する俺の傍で、今度は澪ちゃんがしゃがみ込む。
どうしたのか問おうと視線を下げれば、丁度彼女が一枚の紙片を拾い上げる姿が視界に映った。
……うっわ、今はあまり紙切れとか見たくねえんだが。
さっきのことを思い出し眉根を寄せる俺に気付かず、その紙片に目を通した澪ちゃんが小さく呟く。
「……儀式、したくない……」
「は?」
何を突然、と。
思わず声を上げてしまった俺を、澪ちゃんが仰いだ。
「あの神主さん、この村の儀式に疑問を抱いていたみたいなんです。それでたぶん、儀式をしたくないって……」
それでその
紙を残して、鍵も置いていったってことか?
……ふざけるなよ。
今更何を言ってやがる。
したくない、なんて言ったところで、結局儀式を執り行うのは神主の役目だろ。
……俺たちの母を殺した儀式を遂行したのは、お前だろうが。
結局この村は巴多がすべてで巴多の言葉には逆らえない。
何をどう言い繕ったって、やっていることは変わらねえんだ。
同情なんて、できるはずもない。
「……先、急ぐぞ」
「弥生……」
気遣わしそうな深紅の声に聞こえないふりをして。
俺は再び階段を上り始める。
早く、早く……茨羅を、救い出したかった。
第十一幕・了
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