悲鳴を上げながら霧散してゆくそいつを見届けることなく、俺は光の筋が放たれた場所……樹月の方へと振り返る。

前を見据える樹月の手には、しっかりとあの弓が握られていた。

……なるほどな、威力は絶大ってことか。

俺は一度目を細めた後、すぐに前を向き直す。

そして怨霊たちを睨み付けるように見やりながら口を開いた。


「深紅と澪ちゃんは下がってろ。とりあえず叩き斬ってくるから援護は任せたぞ、樹月」
「……了解っ」


任せた、なんて、俺が言うとは思ってなかっただろうな。

正直、俺自身もそんなことをよりにもよって樹月なんかに言う日が来るとは思ってなかったし。

……だが。

俺も樹月も、望むことは同じだから。



少しは認めてやる。



……少しだけだけどな。

とりあえず、今は目の前の邪魔な奴らを消さねえと。

幸い女性はいないようだし。



…………。



……って、むさ苦しいな、考えてみたら。

まあ、気兼ねなく斬っていけるってことで目を瞑るか。

地を蹴り肉迫した怨霊たちに次々斬りかかってゆく俺の近くで次から次に光が弾ける。

大量発生していた怨霊たちは見る間に数を減らしてゆき……。

残ったのは、あの紫苑家の当主らしき男の霊だけ。



――ギシキノ、ジャマハサセヌ……。



……っまだ言うか。


「うるせえよ! 消えとけ!」


頭の天辺から一刀の元に両断。

生身ではないその体には呆気ないほど軽い抵抗力しかなく、あっさりと刃を通し闇の中に霧散していった。

何か本当、とにかく不快な奴だったな。

そう思い眉根を寄せながら刀を鞘に収める。

それから深紅たちのところまで戻ろうとして……。

紫苑家の当主らしき男が消えた場所に、一枚の紙片が残されていることに気が付いた。

……何だあいつ、消えてなおこんなもの残していくなんて未練がましいな。

そう思いつつ、拾いたくもなかったが一応その紙を拾っておく。

少しは何か役に立つようなことが書いてあるんだろうな?

拾い上げたその紙片の内容に目を通した俺は……。

すぐさまその紙を破り捨てた。


「……弥生?」


なかなか戻ってこないことを気にしてか、深紅が俺の傍まで駆け寄ってくる。

彼女は俺の顔を覗き込むなり眉根を寄せた。


「……どうかしたんですか?」
「え? ああ……」


問われて俺は自分が破り捨てた紙切れを見下ろし目を細めるが、すぐに首を振って深紅へと向き直る。


「いや、何でもない。行くぞ」




――巫女を捕まえた。これで儀式ができる。



あのに書かれていたのは、そんな胸糞悪い内容だった。

まるで今もまだあいつが……いや、この村全体が生きているかのような、そんな内容。

……ふざけるな。

茨羅は絶対に連れて帰る。

連れて帰って、幸せに生きてもらうんだ、絶対に。

強く強く、鞘に収まったままの刀を握り締めながら、俺はみんなとともに塔の中へと踏み入った。













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