「あ! 弥生さん、ここ!」
何かを見つけたらしい澪ちゃんに呼ばれて駆け寄れば、彼女は近くの壁の一部を指差し、そこを懐中電灯で照らし出した。
よく見れば、そこには小さな四角い切れ目が入っている。
わざわざ隠すようにこんな風に……ともなれば怪しすぎるだろう。
端に手をかければ、予想通り開きそうに見えた。
傷みからささくれが酷くなっているそこを、慎重に引き剥がす。
薄めの板が剥がされ露になったそこは、小さな収納のようになっていて。
「! 鍵!」
ひとつの、小さな鍵が杭に下げられていた。
その鍵を手に取りつつ、傍に置かれていた小さく折り畳まれた
紙片も手に取る。
もしかしたらこれがどこの鍵か書いてあるかもしれない。
それは希望的推測だったが、どうやらその通りだったようだ。
その紙片には、これがあの塔の鍵であること。
そして、紫苑家にもうひとつの鍵があることが記されていた。
「……紫苑家……」
「澪ちゃん?」
眉根を寄せて、どこか嫌そうにその名を呟く澪ちゃんに、どうしたのかと声をかけるが。
彼女は慌てた様子で首を振る。
「い、いえ。あの、早く鍵を探しに行きましょう」
彼女の様子、気にはなるが……。
その言葉の内容が本来の目的なのだから、拒否することはできない。
……早く茨羅を見つけないとならねえしな。
澪ちゃんの様子を気に止めつつも、俺たちはすぐに紫苑家へと向かった。
第十幕・了
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