神社か……。
来たことも中を調べたことも一応あるが……。
あまり何度も訪れたい場所ではないな。
が、茨羅を助けるためともなれば話は別だ。
俺は躊躇いなく神社の中へ通ずる戸を開き中へと踏み入る。
……踏み入る?
「……開いたな」
「そ、そんな……っ! あの時は確かに……」
「ああ、開かなかったんだろうな。疑ってないから心配するな、澪ちゃん」
「弥生さん……」
戸惑い困惑する澪ちゃんの頭を軽く撫で、なるべく柔らかく宥めるよう告げれば、彼女は安堵した様子で息を吐いた。
そんな心配しなくとも、ここにいる誰ひとり澪ちゃんを疑ったりなどしていないだろう。
茨羅のためにこんな村にまで来てくれた子が、その茨羅をひとりで放ってきたりするはずがない。
こんなに可愛くて優しい姪を持つなんて、少しばかり螢が羨ましいくらいだ。
……良かったな、澪ちゃん、螢に似なくて。
「っ茨羅っ! 茨羅、どこにいるんだっ!」
神社の中に入った途端、忙しなく中を照らしながら声を張り出したのは樹月。
慌ただしくも思えるだろうが、逸る気持ちは俺も同じため、すぐさま辺りを照らし出し……。
「……これ」
入口近くの隅の方に、ぽつりと残されたそれを懐中電灯の灯りが捉える。
埃を被るでもない四角い箱のようなそれは、もう見慣れてしまった……。
「それ、射影機じゃあ……」
その箱を拾い上げた俺の隣で深紅が呟く。
澪ちゃんもこれを視界に捉えた途端に目を見開き、口元を押さえた。
深紅の呟きを聞き止めたのか、少し離れた場所にいた樹月が弾かれたように振り向き、すぐさま俺たちの傍まで戻ってくる。
「弥生、それって……」
「……茨羅のだ」
深紅や澪ちゃんの持つそれとは型の違う……が、どちらかといえば澪ちゃんの持つものの方に似た形をした射影機は、俺が宗方を脅して手に入れたもので。
……茨羅に、持たせていたものだ。
「そんな……。でも、じゃあ茨羅はどこに……」
そんなこと俺の方が訊きてえよ!
何でここにこれだけ残されちまってる……!?
これがないと、茨羅は……。
……ちょっと待て。
ここは神社で、ここに茨羅と残ったのは……。
「もしかして……!」
あることに思い至った俺は慌てて室内に備え付けられた祭壇に駆け寄り、そこを照らし出す。
「弥生、どうし……きゃあっ!?」
条件反射のようなものか、俺に付いてきたらしい深紅が悲鳴を上げた。
ああ、そうか、ここには……。
「な、何ですか、それ……。気味が悪い」
幸いなのは澪ちゃんが見なかったことか。
……いや、もしかしたらもう見た後なのかもしれない。
この祭壇に祀るように供えられた……小鳥の干からびた死体を。
「この村が祀る水神の正体はな」
目的のもの……一冊の冊子を手に取りながら視線を僅かにずらせば。
干からびた小鳥の死体の傍に祀られた、ひとつの木彫りの龍の像があった。
本当は、今は説明している時間すらも惜しいくらいだが……。
たぶんこれは、今伝えなければならないことだろう。
巫女の目的が予測できた、今。
伝えておかなければ、茨羅が……。
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