…………。

村の中の家屋には、皆神村の家屋ほど傷付いている様子はなかったのに。

どうして、茨羅たちの家にはあんな穴が開いていたんだろう……。

裏口とも呼べないような、ただ壁が壊れて開いたような穴。

その穴を潜ったお蔭で茨羅たちの父には襲われなかったけど……。

……いや、今はそれよりも茨羅と澪さんを捜さないと。


「弥生、どこに向かいますか?」


個別に行動した方が広範囲の捜索ができるけれど、それで僕たちまではぐれてしまったら意味がない。

ようやく弥生とも合流することができたわけだし。

とにかく三人で固まって動くことは暗黙の了解として、その上で向かうべき先を考える。

深紅さんからの問いを受けながら、とりあえず僕達は揃ってあの細い小道を戻っていった。


「……そうだな。……ん? あれは……」


深紅さんに答えようと悩むような仕草を見せた弥生が、ふと何かに気付いた様子で小道を抜けた先で立ち止まり、横手へと視線を移す。

つられるようにその視線の先を追えば、ひとつの丸い灯りがこちらへと向かってきていた。

もしかして、茨羅?

期待と希望に気持ちを逸らせる僕の目に、その灯りの持ち主の姿が見えてくる。

こちらへと走ってきたのは、澪さんだった。


「はっ……はぁ……。み、皆さん、ここにいたんですか……」


どれだけの距離を彼女が走ってきたのかはわからないけど、疲弊気味に息を切らせる澪さんは、僕たちの姿を認めて安堵したらしい。

小さく息を吐いた。


「……大丈夫ですか?」
「は、はい」


すぐに深紅さんが近寄り、気遣わしそうに声をかければ。

澪さんは彼女に頷いて応えた後、急に慌てた様子で表情を焦燥に変える。


「あ、あのっ……! 茨羅ちゃんが……っ、茨羅ちゃんがっ!」


澪さんと一緒に駆けて行ったはずの茨羅の姿が見えないことに、胸中に募っていっていた不安と恐れ。

それは澪さんの話を聞いて、より一層強さを増し。



いてもたってもいられず、僕はすぐさま駆け出した。














第九幕・了



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