それから母の手記に記された、この村から出るための鍵を取りに行かなければならない。

村の出口は蔵にあるらしいんだが、そこを通るには巴多の家と九内の家、それと蔵の近くの小屋に置かれた鍵が必要になるという面倒さ。

巴多はどれだけこの村を外界と隔絶したかったんだと呆れるが、あんな家のことなど欠片たりとも理解したくはないから早々に思考を切り替える。

俺がここに来た理由はこの地図と手記を取りに来たからだったわけで、目的を果たしたからさっさと祠に向かうことにするか。


「っ!?」


……おいおい、勘弁してくれよ。

襖を隔てた向こうの廊下から凄まじい霊気が伝わってきたため、思わず息を潜める。

これは……。


「巫女、か……」


良くこの家まで入ってこれたな……って。

俺が壁を壊したことが原因か、これ。

この部屋はまだ母の霊力がより強く残っているから入っては来れねえだろうけど。

あの穴からこの家に残されていた母の霊力がもれて、あいつが入れるようになっちまったってところか。

……下手に外に出られなくなったな。

この刀を使おうにも、まだ氷室邸での影響が残っていて調子悪いし。

茨羅や深紅、澪ちゃんを置いて別のどこかにでも飛んじまったら洒落にならない。

……巫女の奴、動かねえな……。

我慢比べをしてやる義理も暇もねえんだが。

……いっそ斬れるようなら斬った方が早いだろうし、後々茨羅のためにもなるとは思う。

が、さすがにそれは……な。

事情もわかるし他人事じゃねえから、できればそんな解決法はとりたくない。

まあ今はそうも言っていられない状況なんだが……。


「どうしたもんかな……」


しばらく……もしかしたら思った以上に長い時間だったかもしれないが、とにかく時間が経ち。

ふっと、唐突に襖の向こうの気配が消える。


「ん? 諦めたか?」


いや……他の場所に移ったんだろうな。

……茨羅が心配だ、俺もさっさと移動するか。

そう考えながらすぐさま部屋を出て、来た時と同じように壁の穴から外へと出た。

そして壁沿いに表へ回ったところで。

戸を閉める音が聞こえてきた。


「……?」


今、誰か中に入って行かなかったか?

それも、表からきちんと……。

…………。

いや、茨羅なら大丈夫だろう。

帰る時には連れてこようと思っていたわけだし、それが少し早ま……。


「……今、悲鳴が聞こえたような」


しかも深紅の声じゃなかったか?

茨羅が一緒なら悲鳴を上げるようなことは何も……。


「……おいおい、まさか……っ」


ひやりと、背筋に冷たいものがはしる。

嫌な予感を振り払うように首を振り、俺は確認のために元来たあの穴から家の中へと急いで戻った。













第八幕・了


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