正面には他の神社と同じように賽銭箱が置いてあって、その奥の短い階段の先に中に入れる戸があった。


「……し、失礼します……」


何か……こういう場所って、入っていいのか躊躇う。

……ここまで来て調べないなんてできないし、入るしかないんだけど。

この神社が何を祀っているかはわからないけれど、とにかく一応内心で謝ってから中を調べる。

照らし出した周囲はあちこちに多くの埃が積もり、端々に蜘蛛の巣もかかっていた。

何だか罰が当たりそうなほど汚れてしまっているけれど、村自体がこうなってしまっている以上、仕方がないだろう。

そう考えながら、私は中央に設置されている祭壇に目を止め、そこに向かう。

そこには恭しく……龍、かな……の形をした木彫りの置物のようなものが祀られ、その両隣には灯りの切れた燭台と、その前に……。


「何、これ……。やだ……っ!」


一緒に祭壇を見ていた澪ちゃんが小さく悲鳴を上げて口元を押さえながら視線を逸らした。

私も、思わず祭壇から灯りを外す。

……木彫りの置物の前に、まるで供えるように置いてあったあれって……。



小鳥の、死体……?



年月が経っているせいか干からびて異様な姿になっていたそれが、たくさん……たくさん置いてあった。




「気味、悪い……」


呟いたのは私だったけど思いは澪ちゃんも同じようで、もう祭壇を見ようとはしていない。

私も目を逸らしたかったんだけど……。

祭壇の奥に置かれた数冊の冊子が気になり、なるべく小鳥の死体を見ないようにその冊子のひとつを手に取る。


「! これ……」


それに打たれた銘は……。



儀式の、手順書。




「儀式って……?」
「たぶん、生贄の捧げ方、とかだと思う」


覗いてくる澪ちゃんに答えながら、内容に目を通す。

儀式を行うにあたり、まずすることはこの神社で穢れを祓うこと。

それから禊ぎに入るらしい。

禊ぎ、というその単語を目に、私の脳裏をよぎったのは皆神村のミコたちのこと。

その考えを、慌てて首を振って打ち消した。

もう、思い出すのは嫌。

樹月が……みんなが消えてゆくあの瞬間の、身が裂けるような痛みや苦しみ、悲しみは。

……二度と、味わいたくない。



――樹月……。



会いたい、と。

思ってしまうと抑えがつかなくなりそうで振り払うように首を振る。

そして半ば無理矢理本に意識を戻した。

禊ぎを行う場所は、外界と隔絶された天に最も近しい神聖な場所。



――……あの、塔らしい。




「あのって、そんな意味があったんだ……」


澪ちゃんの声を聞きながら、天に近しい場所、だなんて何だか恐れ多いことのような気がしていた。

……えっと、その禊ぎを終えたら、儀式……水鎮めの儀というらしい……に向かう者はようやく巫女となるらしい。


「コウリュウノ、ミコ……?」


蛟龍ノ巫女

それが巫女とされる者に打たれる名称。


「蛟龍って、何?」
「……何だろう。龍の一種、とかかな」


澪ちゃんに問われるけど、私にもわからない。

少し首を傾げながらも続きを読んでいく。

禊ぎを終えた巫女が向かう先は、巴多の屋敷の奥にある祭壇。

巫女はそこで……。


「首を、断たれる……!?」


思い出す、あの青い髪の女性の首元。

彼女の首に横一線で真っ直ぐに刻まれたあの赤い線は……。







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