しばらく歩くと、今度は前方に二軒並んだ建物が見えてくる。
片方はかなり小さな、家というよりも小屋といった印象を受ける建物。
もう片方は……。
「……蔵、ですか?」
しっかりとした、まるで門のような入り口と、他の木造の家屋とは違う土壁で塗装された造りのその建物。
確かに深紅さんの言う通り、蔵の印象を受ける。
僕は思わずその建物から視線を逸らし、無意識に首元へと指を馳せた。
「……また鍵が掛かっているみたいですね」
溜息混じりの深紅さんの声に我に返れば、彼女は蔵の扉を閉ざす蝶番を懐中電灯で照らし出す。
僕は一度首を振り気を取り直すと、九内家で手に入れた鍵をそこに差し込んでみる。
けれど。
「……回らない。ここの鍵でもないようですね」
「もう。どこの鍵かわかるようにしておいて欲しいですよね」
氷室邸や眠りの家ではそうなっていたのに、と。
いい加減僅かなりとも苛立ちを覚えたのか、深紅さんが不満そうに吐き出す。
そんな彼女に苦笑しながら同意して、僕は隣の小屋を照らし出した。
「じゃあ、向こうの小屋の方を調べてみましょう」
「……そうですね」
早々に気持ちを切り替えて頷いてくれた深紅さんとともに、隣の小屋へと向かう。
そこは多くの家屋と同じで強い劣化が見受けられるものの、何とか入ることはできそうだった。
「気をつけて下さい」
先に入って中を確かめれば、中は生活空間というよりも休憩所のような様相をしていて。
外観同様あちこちの傷みが酷く、慎重に歩かないと崩れそうにすら感じる。
念のため深紅さんに注意を促してから、中を探った。
僅かなスペースの土間から一段高くなった畳敷きの間の中央に囲炉裏があり、その奥に万年床だったのか敷き布団が敷いたままにされ、部屋の隅に小さな文机が置いてあるというだけの、やはり生活するには明らかに向いていない場所。
……布団が盛り上がっていないだけ、良かったかもしれない。
頭の隅でそんなことを考えながらも、棚もないこの小屋では調べるべき場所も限られているのでそこへ向かう。
近付いて照らし出した文机の上には、小さな鍵と一冊のノートが置いてあった。
「……また鍵ですか」
今度は一体どこの鍵でしょうとどこか疲れ気味に呟く深紅さんに苦笑して、僕はノートの方を開いてみる。
どうやらこれは日誌のようだ。
……忌家とされる御導家という家を、監視した。
「……何ですか、それ。逃げないよう見張るって。そんな扱い、酷い……」
僕が読み上げたその
日誌の内容に深紅さんが声を震わせる。
どうやら御導家というその家が、青い髪と目を持つひとが暮らす家のようで。
そのひとが逃げないよう見張るということは……。
水神への生贄にするために、村に軟禁していたということだろう。
なんて、酷い……。
そんなことをするこの村のひとたちの方がよほど、ひととは思えないじゃないか。
こみ上げてくる憤りを胸中でくすぶらせながら、とりあえず日誌を戻す。
鍵だけは貰って、この不快な小屋から出ようとしたその時。
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