「駄目。柵のせいで入れないみたい」
その塔のような建物を囲うように、ぐるりと張り巡らされた丈の長い柵。
それを辿るように周囲を少し回ってみると入り口らしい場所があったけれど、鍵がかけられていて開きそうにない。
「何のためにあるのかな?」
ぽつりと呟かれた澪ちゃんの言葉に、私は首を傾げた。
何となく重要そうな建物に思えるけれど、その用途にはまったく予想がつかない。
調べようにも、中には入れそうにないし……。
そう考えていたその時。
――ごぽ……っ。
「!」
あの、水音が聞こえた。
「茨羅ちゃん……」
不安そうな、怯えているような澪ちゃんの声。
彼女がそっと、私の手を握る。
――ごぽぽ……。
悪寒は、やはり背後から。
……振り向いちゃ、いけない。
「澪ちゃん、走ろう!」
「うんっ」
駆けだしたのは同時。
私たちは決して互いの手を離すまいと、しっかりと手を繋ぎ合う。
そして、少し離れた場所に建っていた一軒の家屋の中へと駆け込んだ。
幸い、その家屋は扉を開けるには問題なく、酷く崩れた様子もなかった。
その家に駆け込み、扉を閉めたところであの気配は消えてくれる。
それに安堵しつつ、私は澪ちゃんと顔を見合わせた。
「だ、大丈夫? 澪ちゃん……」
「う、うん。何とか……」
互いの無事に安心するけれど、でも今外に出ようとは思えない。
……もうそこにはいないという、保証はないから。
裏口を捜すか、時間を置いた方がいいよね。
「澪ちゃん、あの、この家を調べてみてもいい?」
ただ時間が過ぎるのを待つよりも、この村を知る手がかりが少しでも欲しい。
そう思う私に、澪ちゃんは頷いてくれ。
私たちは、家の内部へと踏み込んだ。
第三幕・了
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