母は何を想いながらここへと連れられ、そして殺められてしまったのか。
母に会うことの叶った今、それはもう想像に難いものじゃない。
私は台座を見下ろし、そして目を伏せる。
視覚を絶って視える映像は、何もなかった。
小さく息を吐いて、それから再び目を開く。
その時にはもう、私の足は迷いなく次の場所へと向かっていた。
この場所の最奥……神社で見つけた儀式の手順書に記されていた、巫女の体を投げ入れる穴の方へと。
その穴は洞の端にひそりと無造作に……まるで落とし穴が掘られているかのようにあいていて。
近付くと、端からざらりと砂が零れ落ちた。
……淀んだ空気。
傍にいるだけで全身に重くねっとりと纏わりつくこの空気は、どこか皆神村の×を思い起こさせる。
暗く、どこまでも暗くぽっかりと口を開くそこがどこに続く闇なのか、わたしにはわかっていた。
この穴は……。
黄泉へと続く、路。
常世と此世を繋ぐ門。
ここを封ずる楔となるのは人柱なんかじゃない。
中身のないそれでは、想いが溶けるまでの一時凌ぎにしかならないんだ。
……今でこそ溶けていた想いが再び集まり固まって「巫女」というカタチを作っているけれど、そういうことじゃないの。
必要なのは……生きた魂。
そう、生きた魂が果てることのない永久に縛られることこそが、黄泉との路を塞ぐ、ただひとつの方法。
誤った方法だったけど、一時でも黄泉と繋がった母にだからわかったその方法は、母の娘である私にだから伝わった。
「……さあ」
足を踏み出す。
迷いも躊躇いもない。
砂が、小さく音を立てて……おちた。
「終わらせましょう」
わたしの。
うまれた。
――イミ。
おちる、おちる、おちる、浮遊感。
くらい、くらい闇の中。
ぐるり、と。
わたしの世界は……反転した。
終幕・了
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