歩みを再開して細い道を更に下へ下へと下ってゆき、途中出くわした首のない霊たちの悉くを母が消し去るを繰り返してしばらく。

ようやく下り坂は終わりを迎え、目の前の景色が少し開けた。

どれだけ下ってきたかもわからないここで、真っ先に目に飛び込んできたそれは深い緑にも近い暗く沈んだ青。

青が、小さな波音を立てて静かにそこに広がっていた。

下り坂を終えた途端に足元に広がったのは白い砂地。

洞窟のように岩肌に囲まれたここは天井も高く、砂地の先に溜まる水がまるで海のようで……。

眠りの家の、彼岸と此岸を繋ぎ分かつあの場所を思い出させる。

その要因のひとつとして、ここにも木船が一艘、着岸していた。

海のように広がる水のその先は暗く、どこに続くかまるで視認できない。



でも、わかる。



この先が、わたしの目指す……目的地だと。



一歩、踏み出した足が僅かに砂に沈んだ。

向かう場所は、あの木船の元。

それに乗り、向かう先できっと。





すべてが、終わる。





――ミコ。モドッタカ……。



ざわ。

私が木船の元に辿り着くよりも早く、周囲の空気が震え目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。


「……来たな」


母の呟きと、父が刀を構えるその動作に伴い奏でられる小さな金属音とが耳に届く。

踏み出していた足を僅かに引き戻した私が二人とともに見つめるその先で、ぼんやりと靄を纏い現れたのは。

村の中で幾度か見かけた、あの男性の霊。

……さっき頭の中に流れてきた映像に出てきた、首を刈るあの男のひとだった。

彼は……。


「巴多の当主」


呟いたのは私ではなく父で。

刀を構えたまま目を細めて男性の霊を見据える父はただ静かにそこに立っているというのに。

強い怒りが、ひしひしと伝わってくる。

さっき蔵の前であのひとと対峙していた時は深く思考に耽っていたから気付かなかったけど、もしかしたらあの時も父は同じ怒りを纏っていたのかもしれない。

……すべての元凶だからと言ったら過言かもしれないけど、でも、少なくとも父と母を別った張本人ではあるから。

私だって、いい気はしない。



――ミコ。サア、ギシキヲ。




「っ!?」


一瞬にして詰められた間。

すぐ目の前で私を見下ろすその目をまともにみてしまい、私は戦慄した。



……このひと、正気だ。



我を失った、自分を失くしたただの怨霊でもなく、気が狂っているわけでもない。

正気のまま、儀式を成すことに囚われている。



……怖いっ。



嫌だ……っ、このひとは、いや。



捕まってしまえば、間違いなく私は首を刈られる。

それじゃあ、意味がないのに。


「娘に触れるなっ」


静かに、けれど荒々しい響きを宿した父の言葉が耳朶を打つと同時。

目の前の巴多家当主の霊に銀の閃光がはしる。

小さく呻いてよろめいた当主は、けれど完全に消え去ることはなく一時的に姿を消し、今度は少し離れた場所で姿を現した。







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